面接形式で学ぶもの
2012-07-12
進学・企業就職といった人生の岐路にあたり、大抵どなたでも面接を受けた経験はおありだろう。その際に、果たして自分の良さを伸び伸びと表現できていたであろうか。それとも萎縮してしまい、なかなか思うようなことが語れなかったであろうか。往々にして後者のような苦い経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。面接というのは、一種独特な空気感を持ち、その重大さゆえに極度な緊張を伴う行為でもある。大学1年生を対象として、就職面接を想定したスピーチ実践を指導している。志望動機・職場で活かせる能力や経験・自己PR(長所)の概ね3点に関して、模擬面接の中で語るというもの。往々にして抽象的な内容になりがちであるが、どれほど具体的なエピソードを通じて個性的な内容が語れるかが大きなポイントである。
もちろん、1年生という段階では、未だどんな方向への就職を志すかは定かではない。だがしかし、就職時に行われることを想定して語る内容を考えることから、今後の大学生活に目標を定めることができる。特に「職場で活かせる能力や経験」の項目においては、現在の目標や想定を語ればよく、現実の就職時にその能力が現実に可能なように勉学に励むという動機作りに有効である。漠然と「就職」を考えるのではなく、早い段階でこうしたビジョンを作り、前向きに目標ある大学生活を築く。そんな機会として、自らの長所を“語る”ということは、大変有意義な時間となる。
これまで、3分程度のスピーチで学んできたことの集大成。それでも面接という独特な空気の中で、思う存分自分を表現することはなかなか至難の業であるようだ。面接という形式を採るだけで、日常にない緊張感に包まれ、たどたどしい“語り”になってしまう学生も多い。だが、その経験こそが何かをもたらしているようにこちらは受け止めている。こうした“緊張”そのものを、大学1年生に提供していること自体に、大きな意義を感じつつ毎度の授業に取り組んでいる。
最終的には、言葉遣い・表情・態度・敬語・禁句等々、詳細に考慮しなければならない具体的な“技術”は多々あるだろう。しかし、それ以前に「どんな自分であるか」という内実に関して学生時代を通じていかに創り上げておくか。どんな日常を生きているかという「人間そのものの生き方」が、面接では表出するのではないかと思う。学生は事前準備として、表面だった建前を中心にした“飾りことば”を中心に準備を進めてくる者もいる。だが、そんな建前が、いかに空疎で虚しいものであるかを悟る機会としても重要であるようにも思われる。最終的に頼りになるのは、どのような「日常」を生きているかという自分以外にはない。それがどれほど個性的で充実しているかというところに、各自のアピールポイントがあるはずである。
日常的な“今”が自分を創る。
何も就職活動を前にした学生のみにいえることではない。
我々はどこかで「生きる」ことを、
あまりに尊大で着飾ったものに考えていないだろうか。
「生きる」とは、“今そのもの”なのである。
学生の模擬面接を通じて、そんなことに思いを巡らしている。
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