『エリア51』から今感じること
2012-06-25
「エリア51」といえば、野球ファンならイチローが守るライト領域の呼称を思い浮かべるであろう。彼の守備範囲の広域性・返球の的確性に加えて強さ・華麗さなどの要素が、守備として“聖域”のように感じられるゆえ、メジャーファンの中で背番号に重ねてこのように呼ばれるようになった。しかし、元来「エリア51」というのは、米国ネバダ州にある極秘軍事施設の呼称である。米国の一つのメディア的風習として、何らかの歴史的な呼称を他の出来事に重ねて使用する傾向があるのだろうか。「グランドゼロ」もまた然りである。昨年全米でベストセラーとなった『エリア51』を描いた書物がある。最近、日本語翻訳版も出版されたようであるが、まだ読むには至っていない。「ロズウエル事件」と呼ばれるUFO墜落と宇宙人遺体回収を始めとして、様々な軍事的実験の実施。そしてアポロ月面着陸捏造の現場であるとされるのは、あまりにも有名な話である。僕が幼少の頃に、「確保された宇宙人」という写真を書物で見て、何ともいえない怖さと同時に、それが果たして真実なのかどうかという点で大きく気持ちを揺さぶられたことを記憶している。ましてや人類の月への第一歩という、文明開発の象徴的な出来事が極秘施設周辺の砂漠で捏造されていたとする説を知った時は、子供心にも「真実」とは何かなどという気持ちが、ある種の歪みと同時に、報道されている出来事というのは、全て人間が造った“虚構”のようなものだという淡い感覚を持ったことが思い出される。
子供の頃というのは、好奇心と純粋さに満ちている。それゆえに、こうした「俗説」的なものを知る事への興味と同時に、自分が眼にしていることは、周囲の身近なことを含めて全てが、仕組まれていて実はそれを信じているのは自分だけなのではないかというような疎外感を持ったこともあった。要するにそこに、「真実」とは自分の眼でしか確かめられないという感覚が育つ芽があったように、今にして感じられる。UFOや超自然現象などを扱う番組を視る度に、こうした「疑って確かめる」気持ちが高まって来たということであろう。それでも、どんな年齢になっても『エリア51の真実』というタイトルの本には、無条件に食指が伸びそうな自分がいるのである。アメリカに存在する「極秘」と称される「事実」には、ハリウッド映画的な豪快さと相俟って、無性に人の心を惹きつけるものがあるのだ。
それだけに、「事実」とは何であるか?ということには、いたく敏感でありたいと常に思う。UFOや超自然現象の特集番組を、どれほどの真実味を持って視ていたかどうか。現在では、それと同等か、それ以上の懐疑的なフィルターを通して、特にTV報道に接するようにしている。全ての報道は、どこかで製作者の“意図”が付加されている。バラエティーが喧伝する「衝撃の真実」という内容を、鵜呑みにする方は少ないであろう。そこには明らかな「受け狙い」という低級な意図がすぐに見えるからである。しかし、昨今は特に、バラエティーならずとも、報道する側が受ける制約やしがらみにより醸成された、混沌とした“意図”を読みたくなる報道も多い。その“意図”を、Web上のある意味で制約のない放逐な視線をもった言論が、暴こうとする図式が露わになって来ている。
自分の情報収集に責任を持ち、自分の眼で確かめる。
もはや、そんなことでしか「事実」はわからないのではないかと思うことさえもある。
やや「物語性」を帯びた『エリア51』について語られてきたことと、
実はそれほど変わらない報道に接して、僕たちは右往左往しているのかもしれない。
「真実」として投げ掛けられることばには、必ず発言者の「意図」が、
意識無意識を問わず潜在することを忘れてはならない。
【日本語訳版】
『エリア51―世界でもっとも有名な秘密基地の真実』
(アニー・ジェイコブセン著・田口俊樹訳・太田出版)
【ペーパーバック版】
『Area51 An Uncensored History of America’s Top Secret Military Base』
夏休みに楽しみな一冊ということで、ここに記しておこうと思う。
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