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朗読の人柄―2つの朗読公演に接し

2012-06-24
ひとえに朗読といっても、様々な性格がある。もちろん読み手の個性で多様になるのは前提でありながら、その題材に向き合う情熱や姿勢・題材咀嚼の方法・語り方、表現そのもののあり方に至るまで、実に個性的であり、まさに“人柄”が存在するといってよい。この日は、2つの朗読会に参加し長編の朗読を聴く機会に接し、改めてそのような思いを強くした。

台東区立樋口一葉記念館で開催された「一葉研究会」。その一葉の旧居跡に程近い場で、代表作『たけくらべ』の朗読を聴いた。朗読家・内木明子氏による約70分間の朗読である。

「廻れば大門の見返り柳いと長けれど、お歯ぐろ溝に燈火うつる三階の騒ぎも手に取る如く、明けくれなしの車の行来にはかり知られぬ全盛をうらなひて・・・」

という冒頭部分を、ほぼ暗誦するかのように語り始めた内木氏。この雅俗折衷体である文体を、いかなる呼吸で読んでいくか。まさに句読点のという方法による作者の呼吸が十分に表出していない文体を、流麗に読んでいくことには、相当量の作品咀嚼と準備が必要であろうことを、痛切に感じさせる朗読である。次第にその文語表現独特の韻律が際立ち、不思議と声が小躍りするような躍動感が現れてくる。また同時に、江戸時代の名残よろしく当時の口語表現による会話部分などが融合し、場面の再現が現実味を帯びてくる。

内木氏が全朗読を終えた後、挨拶の中で「その場面・場面を稽古した際のことを思い出しながら、懐かしい気持ちで朗読しました。」という趣旨のことを述べた。小説のそれぞれの場面を、どのように表現して行こうかとする模索が、様々な形で結実し70分間が織り成されて来る。やはり朗読の基本は、作品の読み込みが重要であることを、改めて感じさせる朗読であった。

朗読会の後、一葉記念館の展示、および『たけくらべ』の舞台である付近の散策をし、まさに「大門跡」から屈曲した路を歩み「見返り柳」に後ろ髪をひかれながら、この地を後にした。


この日、2本目の朗読は、神保町Café Flugでの開催。今月初めには大学の授業に来ていただいた、春口あいさん・下舘直樹さん出演の朗読会である。浅田次郎原作『ピエタ』を、春口ゆめさんによる演出。春口あいさんが、大好きだと語るこの作品が、夜の帳が降り来る本の街の一隅に響いた。

春口あいさんは昨年、この作品による一人芝居を演じたという。元来の役者魂で、その「愛」とは何かを問い掛ける作品を表現した。今回は、敢えてそれを朗読という形式に引き戻しての公演。「朗読」なのか「朗読劇」なのかという境界線は大変微妙であり、毎度の授業や学生の発表会に於いて、論議を呼ぶ部分である。どこまで「声」のみで表現し、どの程度動きを伴い演じるのか。その調合具合というのは大変微妙なものがある。一歩間違うと、相殺されてしまい、表現自体が台無しとなる危険性を伴う。そんな難しさを乗り越えて、春口さんの表現は、見事に朗読として而立していた。

 作品が問い掛ける「愛とは何か」というテーマ。その人間の心の機微を、作品を通しながら、ひとりの人間として語り出していく。一つの台詞にどれほどの生命があるか。人間存在そのものを賭した重みがあるか。作品から受け取ったメッセージ性を、自らの声と表情に託して訴える。その全身の雰囲気そのものが、春口さんの朗読表現でもある。咀嚼を超えた作品との一体化。もしかすると原作も意図しない、人間「愛」という深淵が、春口さんの身体を通して表出して来ているのかもしれない。作品と向き合うのではなく、作品そのものに“なる”。これぞ、役者経験を高度に活かした朗読であると感じ入った。

その表現に添えられる絃の響き。下舘さんのギターは、決して主張しない。だがしかし、いつしかその表現世界に不可欠な存在感を示す。BGMとも効果音ともいえぬように、朗読表現を最大限に引き立てていく。柔らかでありながら芯の通った音色。愛を語る「声」と共鳴し、いつしか独特の表現世界に聴衆を誘う。改めてアコースティクな「絃」と、人間の「声」との相性の良さを実感する。たぶん、人間愛の表現に「電気」は不要なのかもしれない。

最後に、公演パンフに示された作品『ピエタ』の捉え方に共感したので、ここに引用しておくことにする。

「誰しも、愛する人のことは全力で支えます。それは時に、背中を叩くことであり、時に当人が望まなくても本音を伝えることであり、自分をさらけ出すことであり、許しを乞うことでもあります。笑顔で包容するだけでない、人の『愛』のあらゆる姿が、詰まっているのが、この『ピエタ』という作品です。
全ての感情は、愛の変形だ、と言った人がいます。
全ての脚本の根源は、愛だ、と言った人がいます。」



文学作品を文学として正面から向き合い、
自分との距離を測定しながら客観的な理解の域を声にしていく朗読。

文学作品の世界に身を投じ自らの魂を以て演じ、
その“真実的”虚構世界で感じた人間愛を身体全体で表現していく朗読。

1日で、そんな2本の朗読に接することができた。

はてまた、ナレーション・アナウンス・声優・役者・創作者・研究者等々・・・
その領域・領域において、様々な朗読の“人柄”がある。
それぞれの特徴を、今後も言説化して見つめて行きたいという思いも新たにした。
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