議論に抵抗なく取り組む
2012-05-31
大学の留学プログラム参加者クラスにおいて、ミニディベートの授業を行った。他の講師の先生と合同で3クラスの学生が一堂に会した。身近な話題ということで、「電車内の化粧」「美容整形」「中高制服」について賛否を論じ、実質的な考え方よりも、いかに説得力ある主張を述べるかという点を審査基準として進行した。4人1組の班を6組構成し、3つの課題のどれかに対して「賛成・反対」のうちから立場を選択し、それぞれの立論を洗い出す。その後、賛否の理由を2分間で主張する。更に各班において反対の立場である班に対して反論を述べる。該当のテーマに加わらない班4つは、2チームの説得力を基準に審議をして優劣を投票する。主張の際の口頭表現が、どれほど効果的に機能するか。その過程から議論する際の基本的姿勢を学んでいく。「車内化粧」のトピックでは、
賛成組の主張として、
「迷惑はかけていない」「時間短縮」「他の人の化粧の仕方から学べる」など。
反対組の主張として、
「匂いが迷惑」「隣の人にぶつかる」「公共の場のモラル」「だらしなさが表に出る」
などが表明された。
「美容整形」のトピックでは、
賛成組の主張として、
「メイクと一緒」「整形が文化となっている国もある」など。
反対組の主張として、
「個性が失われる(コンプレックスも個性)」「それ以前にすべき努力がある(あくまで最終手段)」「中毒性がある」
などが表明された。
「中高制服」のトピックでは、
賛成組の主張として、
「時間短縮(更衣・選択)」「秩序な協調性を学べる」「ふさわしくない服装を防止できる」「学校の看板を背負う」など。
反対組の主張として、
「子供でないので好きなものを着ればいい」「快適で成績も上がる」「学校の評判などに左右されず個人のプライバシーが守られる」「先生の注意も不要」
などが表明された。
その後に、それぞれの論点に対しての反論の主張が為され、どちらが説得力ありかが判定された。
概ね、「車内化粧」「美容整形」では、反対組が優位の判定を得て、
「中高制服」では、賛成組が優位の判定を得た。
班を構成し、各トピックについてどの立場になるかは、偶然性に拠る。それだけに、各自の基本的な考え方に反する立論・主張をしなければならないこともある。だが、一つの立場において、感情論を排し客観的に主張を述べ合うという姿勢から学ぶことは多い。その上に、違う立場の人々をどのように説得するかという点に主眼が置かれる点も、この学びの意義として有効に作用する。
小中高の教育に於いても、ディベートを学ぶことは「話す・聴く」という国語教育の領域で、実施すべき内容である。個人的な教員の努力により、実りある授業実践が行われている学校も多くあるだろう。だが、総じて国語の授業において活発な意見が交わされるという状況が一般的かというと、甚だ懐疑的である。少なくとも一般的な教科書教材を扱う授業に於いては、なかなか個性的な意見を主張し合うという“空気”にはならない。〈教室〉とは、意見を主張してはいけない場であり、右に倣った意見に服し教員主導の読み方に従う場となっているのが現状ではないだろうか。試験という現実を眼の前にして、そのように進行するのが、当たり障りのない授業ということにもなる。
その為か、巷間においても「議論」はあまり好まれない傾向にあるようだ。仲間内や親しい間柄でも、自己の意見を論じ合うことは少ない。はてまた、主張するとなると感情論剥き出しとなり、お互いに冷静で客観的な立場を失う。それゆえに、身近な社会問題に対して語り合うような場が、なかなか持てない。それぞれは意見があるはずなのに、それを主張することもなく、無難に柔和な顔をして当たり障りのない関係性を持続する。たぶん、その反動が、ネット上での異様なまでに攻撃的な主張と化して匿名性の上で表出されてくるという現象となるのだろう。
議論に抵抗なく取り組もう。
自分の意見に反する主張を聞く耳を持とう。
無難に仮面を被り合った関係性ばかりで、果たしていいものだろうか?
こうした抵抗感が、
「意見を主張しただけなのに、人格まで否定したと勘違いされた」
といった状況を多数引き起こしている。
議論とは何かを知らぬがゆえである。
議論の出来ない社会の行く末は恐ろしい。
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