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映画「ビターコーヒーライフ」―入川保則さん主演・最期の情愛物語

2012-05-30
虚構であるはずの映画が、こんなにもリアルに心に響くとは。素朴な脚本と演出に加えて、“主演”の渋い演技が際立つ作品。昨年3月に、癌による余命半年宣言をした後に、9月に撮影を終了。12月24日に永眠された名脇役・入川保則さんの遺作となる一本である。以前に、小欄で幾度か紹介したが、入川さんとは何度か馴染みの店でお会いしたことがあり、「朗読」に関してのお話をお聞きしたこともある。ほんの僅かではあるが、人間・入川保則に触れる機会を得ていたことが、この映画の感激度を異常なほどの数値に引き上げてくれていた。

物語の舞台は、福島県白河市。オリジナルブレンドのコーヒーが評判な、一軒の喫茶店のマスターを入川さんが演ずる。喫茶店は、愛娘と二人で切り盛りするが、実はこの娘はマスターの養女である。現在はひた隠しにしているが、このマスターは元警視庁捜査一課で「鬼」と呼ばれた敏腕刑事。殺人事件で逮捕した犯人の娘を引き取り、男手一つで育て上げて来たのだ。しかし、このマスターの身体は末期癌に蝕まれており、養女を出所した実の父に逢わせようと奔走する。マスターの実の娘との関係を含めて、父娘の愛情とは何か、生きるとは何かを、渋さの中にも芯が強く描く秀作である。

これまで時代劇等で名脇役と讃えられてきた入川さん。主演として、過去の鬼刑事ぶりをひた隠し、優しい喫茶店マスターを演じる主役という位置に座る。同時に、現実に末期癌と闘いながら、末期癌の役柄を演じる迫真ぶり。次第に体調が悪化していくマスターの姿に、現実世界における入川さんの闘いが背後に浮かぶ。病室を抜け出してまで、育てた愛娘の実の父を捜し続ける奮闘ぶりに、次第に心が熱くさせられる。そんな役者としての全てを賭けた演技の中にも、入川さんの優しさが垣間見える。いつしか娘役の山本ひかるさんが、実に美しい輝きを放つようになる。それは入川さんが、“生きて”きた“名脇役の血”が、自然体で放たれた証拠ではないかと思う。友情出演の秋吉久美子さん、また「マスター顔色悪いんじゃないの」と言って喫茶店でお金を支払うのみの演技をする松方弘樹さんなどが花を添える。主役・脇役が反転した僅かな場面に、役者として演技のあり方までも、入川さんは語っているように受け取れた。

この映画の音楽担当は、岡本美沙さん。昨年6月に、入川さんが開催した朗読会でも、ピアノ伴奏を担当していた。その際も、入川さんの声を最大限に引き立てる旋律であると解していた。今回の映画内でも、白河市の穏やかな光景と入川さんの芯のある演技を、どこまでも引き立てるピアノの響きが印象的であった。その曲・音作りは、入川さんの“声”を自然に髣髴させる“名脇役”ぶりを発揮している。


入川保則さんの人生。
余命半年宣言後にも作品に関わり続けた役者魂。
その姿から、改めて生きるとは何かを学ぶ。


この映画を観て、改めて悟った。
生きるとは、「今現在に妥協のないこと」である。
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