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映画「ちづる」―優れたドキュメンタリー映画を観る会

2012-04-26
ドキュメンタリー映画を撮ろうとする意志はどこから生まれるのか。多くの人に自らの世界観を克明に伝えたいと願うがゆえ。「多くの人」というと語弊があるかもしれない。ごく「限られた人」にでも、自分が説明したいことを映像により語る。そんなささやかで純朴な意志から出発した映画が、まさに「多くの人」の心に訴える。この映画は、立教大学に在学していた学生の卒業制作という“意志”から出発している。

自閉症で知的障害の妹を持った兄。周囲の人々に、自分の妹の話をするのを意図的に避けてきた。いや、説明することができなかった。そこで、映像という手段で妹の生き様を人々に説明しようとしたことから、この映画は生まれた。20歳になる「ちづる」と、その母・兄の家族生活。母は自らの生き様を賭して、「ちづる」に正面から向き合い続ける。父(夫)を交通事故で失い、親子3人の生活。大学生として将来を考える時期になった兄(映画監督)自身の、揺れる心そのものも、母との口論的な場面を避けずに作品に盛り込んだことで、秀逸に表現されている。

想像するに、自らの妹の日常を映像に収めることそのものにも、幾多もの葛藤があったはずだ。だが、20歳になり精神的に成長していく妹の姿が、むしろ微笑ましくも逞しくも思えて来たのだと、ことばでなく撮影・編集された映像が語っていく。また、2人の子供を育ててきた母の奮闘ぶりを余すところなく映像に収め続ける。その母の力強さとひたむきさが、家族とは、生きるとは何かというテーマを語り尽くしていく。もはやこの映画の主人公は、「ちづる」のみならず、家族3人であるという思いを強くした。

小欄では、ライブ性のある「声」のあり方をテーマにしているが、逆に映像でこそ伝わるものがあると教えられた。「ちづる」は自身の映画を観て、「主演女優」だと笑っているという。母は、「当事者過ぎて」といって遠慮気味に観ているというが、それでも自らの生きてきた道を、多くの人に伝えたいという意志を持つ。(ブログの書籍化)そして兄である赤崎正和監督は、この映画製作を通して福祉の道に目を開き、その方面の仕事に就いた。1時間19分ほどにまとめられた映像から、家族が確実に明るい道へと歩み始めた。表現してこそ得られる道が、人生には多々埋設されているのだ。



僕自身も大学院の時に、「発達障害論」を学んだ。担当の先生とは今でも懇意にさせていただいている。先生は自ら「(現場)実践と研究の交わるところで奮闘している」と常々語る。現場にいて実情を体感し、それ分析しつつ言説化することで、行政や社会に真に訴えることができるのだと力強く語っていた。実践を通して、そこから表現する。表現すれば次の道で光が見えてくる。未だ差別視されることの多い障害者の方々を取り巻く分野を、遮蔽することなく、ことば・映像で社会全体に訴える力が必要なのだ。

赤崎正和監督自らの赤裸々な生活白書でもある。
終演後、実に穏やかな気持ちになって帰路の夜風に吹かれた。



「優れたドキュメンタリー映画を観る会」(代表:飯田光代さん)
下高井戸シネマ(℡03-3328-1008)にて。
4月28日(土)まで。
昼1回とレイトショー1回(1日2作品上映・土曜日レイトショーのみ)
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[2012/04/26 07:05]
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