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「ALWAYS三丁目の夕日’64」が語り掛けるもの

2012-02-27
「幸せって何でしょうな・・・?」
映画の予告時点から公開されていた、
“夕日三丁目”の町医者・宅間先生(三浦友和)の台詞だ。

そして’64年10月、“東洋の魔女”といわれた
日本女子バレー代表がオリンピックで優勝した晩に産まれた子供を抱いて
夕日を見上げながら小説家・茶川夫妻がふと口ずさむ台詞
「この子が大人になっても、この夕日は綺麗でしょうか?」

その時産まれた子であれば、今年で48歳になっている。
果たして、東京から見る“夕日”はいま美しいのだろうか?
僕たちは個々の感性の中で、その答えを知っている。
だが、もしかしたら
“夕日”そのものに注意する気持ちさえ失った人々もいるかもしれない。

そうだ、素朴に一日を幸せに過ごせた思いをもって、
“夕日”を美しいと思う感性は、ほぼ確実に失われたといってよい。
高層建築物の乱立に象徴される東京の発展は
この48年間で
何かとても大切なものを置き去りにしてきてしまったのだ。


家電としてカラーTVが普及し始める
マイカー所有者が増える
東海道新幹線が開通する
東京オリンピックが開催される
‘64年というのは確実に高度経済成長が、
一大成果となって表面化した時代だ。
自衛隊のブルーインパレス飛行隊が東京の空に描いた五輪雲は、
世界に名立たる経済発展を遂げつつある日本を象徴している。


向こう三軒両隣やお向いさん
そんな他人同士が喧嘩をしながらも肩寄せ合って生きていた時代
集団就職で青森から状況した少女を預かり
親同然に、いやそれ以上の存在として育て
彼女が付き合った男を勘違いして殴り飛ばす自営自動車修理工場の旦那
嫁ぐ日には、父親同然の涙を見せる

小説家を目指すという志を父親に否定されたと思い続け
その憎しみをバネにして連載小説を書き続ける野暮な男
自らが経験した父親との関係をまた自らが辿る

こうした血縁ではない間柄が共に暮らすことで
その相手に心底こだわり
ことあるごとに喜び怒り哀しみ楽しむ
人間同士の繋がりとは何かと改めて考えてしまう

茶川が息子同然に育ててきた淳之介に吐き捨てるようにいう
「俺はな!お前を全力で叩き潰す!」
その小説家の眼は輝いていた
自分が好きなことに没頭し、人生を賭けた真剣勝負がそこにある


あくまで断片的にこの映画で印象に残ったシーンを、一定の配慮のもとに羅列してみた。僕はこの映画をある特別な感慨をもって観たかった。だから滅多に映画など観ない両親を映画館に誘った。’64年に結婚直後だった両親が、その時代を生きた過去の思いとどうリンクさせてこの映画を観るかという感想が聞きたかったからだ。予想通りかそれ以上に母は感涙頻りだった。そうだ、やはり’64年当時の日本は、今よりも確実に貧しいが、それでも豊かだったのだ。その後を生きて、いま社会を支える後進の世代が触れてみる価値ある感性がそこにある。

 だが、ここで注意したいのは単純な回顧主義である。どこぞの知事が躍起になるように果たして東京五輪をもう一度開催すれば、この人々の人間味溢れる感性が蘇るのだろうか?マンションや高層建築物を廃して、お互いの生活が覗き見えるような街空間を作れば、豊かな人間関係が築けるのだろうか?“おせっかい”と思われるような徹底した他人へのこだわりを皆が持てば、この社会は明るくなるのだろうか?あの’64年の感性は、確かに美しい。映画という虚構の中で描かれれば尚更、美化されている。だからこそ僕たちは、精緻に考えたい。あの時代から何を学べばいいのかを。“あの頃”を起点にして確実な“過ち”を日本社会は犯していないのか。高度経済成長という世界の中の奇跡は奇跡として否定はしない。否定しないからこそ、まさに今、その“功罪”を冷静に教養と知性をもって語るべきではないだろうか。


考えてみれば’64年というのは、戦後からたった19年しか経過していないのだ。
街の修理工場「鈴木オート」の旦那は吐き捨てる
「戦後生まれはだからダメなんだ!」
ならば’64年当時の“若者”は僕たちに吐き捨てるだろう
「東京五輪後生まれはだからだめなんだ!」と。
常に上の世代は下の世代にこんな言葉を順繰りに浴びせ続ける。


だからこそ個々の“今”が大切なのだ
僕がこの映画を両親と観た意味もそこにある
虚構の’64年が語り掛けるもので“今”を語るべきだ
両親の感じ方を、僕は受け止め
そして次の世代へまたリレーするのである


そんな意味で、様々な世代の方々に観ていただきたい映画である。
照れくさいので最後まで記さなかったが
僕は終始、3D眼鏡の奥を潤ませていたことを付言しておく。
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