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老人の視線からみたファーストフード

2012-02-10
 毎度、木曜日は英会話前に必ず立ち寄る洋食屋さんのカウンター。この日は、やや早目の時間から顔を出すと、店主夫妻と息子さんが笑顔で迎えてくれた。相も変わらずカウンターコミュニケーションを始めつつ、料理を注文する。何気なく様々な話題を特に順番もこだわらずに話していると、息子さんの友人の勤務先同僚が、僕の教え子であることがわかったりして、予想外の発見に出会うこともある。だいたいにおいて、この店の御主人と息子さんは、大の野球好き。野球の話題となると本気度が上がり、やや仕事に支障が出たりはしないかと心配するほどだ。それにしても、こうしたカウンター越しのコミュニケーションは何とも心穏やかな時間となる。

そして、また変わらずいつもの90歳を越えた老人が来店する。もう数年になろうか、毎週僕の英会話前の“お勤め”に合せて、ほぼ確実に来店してくれる。もはや「友人」といった関係といってもよく、気心知れた仲である。寒くても薄着で外出し、肉類を躊躇なく食する。もちろんワインとウイスキーを何よりの楽しみにしている。
この日は、店の息子さんと外食の話題となり、立ち食い蕎麦屋はどこが上手いかとか、マクドナルドの話題になった。僕自身は、外食でこうした類の店を殆ど利用しない。とりわけマクドナルドなどは、前回利用した記憶が定かでないぐらいの期間を利用していない。その理由は、こうした個人営業飲食店こそ、素材や調理法にこだわり安心して食事が楽しめるからだ。正直なところ、マクドナルドの店の前を通り、その“香り”が漂って来ただけで、僕は眉間に皺を寄せる表情になっているかもしれない。

そんな話をしていると、老人がこう言った。「僕なんかは、杖を突いてマクドナルドに行って並んだりしても買えないし、また持ち帰ったりすることも難しいね。」と。確かにそうだ。やや腰が曲がり、杖で歩む老人がファーストフードのカウンターを利用するのは、大変難しいことを知った。それゆえに老人はたいていが、人情豊かな店がまだ何軒かは存在する街で、この洋食屋さんをはじめ、個人経営の居酒屋・喫茶店と利用する店を限定している。いずれも街の話題を語れる店で、店の人も老人がどこに住んでいて、どのような境遇であるかまで知っている。さながら、街の個人営業飲食店が、老人の心も休める場になっているということだ。

だがしかし、昨今の日本の飲食店事情をみるにつけ、ファーストフード系やチェーン系の店が増大し、個人経営店を駆逐し淘汰している。繁華街に行って簡単に食事をしようと思っても、よく調べておかない限り、納得する個人経営店を発見するのは難しい。ファーストフード店のあのシステムによる食事購入が、年老いた人々にとって苦痛であり困難であるという視点で、物事を考えたことがなかった。いずれは更なる高齢化社会を迎えることが確実な日本社会で、人間関係を視野に入れない全国一律のマニュアル化された購買制度で、果たして外食産業が機能して行くのかという不安を覚えた。

今現在でもファーストフードを利用したくない僕が高齢になった時、住居する街に馴染みの個人経営飲食店が存在するのだろうか。老人のことばは、将来の日本での生活に密着した不安を、実に普遍的に炙り出していた。だからこそ、今現在において存在している個人経営飲食店を大切にしなければならない。それらを支えるのは、僕たち一人一人だ。遥かに隔たった年齢の老人と、友人のように会話をしていることで、発見するものがある。そんな“豊かな”場が、むしろこれからの高齢化社会には多々必要になってくる。我々は、自分自身の問題として、高齢の老人たちとコミュニケーションをとる必要があるのだ。

老人は、広い幹線道路の横断歩道を青信号のうちに渡り切るのも難しいほどの速度で歩む。ある時、渡り切れずに交差点にいた警官によって「警告」を受けたという。警官は、その場において純粋に任務を遂行したのだろうが、こうした問題点を汲み上げて署で討議するぐらいの意識が欲しい。たぶん30年以上前の警官なら、こうした老人に「警告」を出すようなことはせず、横断を「支援」するという行動をとったはずだ。街の「おまわりさん」も、もはやファーストフード化してしまったのだ。

高齢化社会の到来が喧伝されながら、社会状況は逆行している。
その矛盾に気付く人々も少ない。
笑顔でファーストフードカウンターを利用する人々の行く末には、深い憂いが待ち受けているのだ。

僕たち一人一人が、老人の視線で物事を考える必要がある。
さもなくば、政治制度を含めて日本の将来は極めて危うい。

せめて街の個人経営飲食店を、自らの手で支えて行きたいと思う。
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