有田芳生著『何が来たって驚かねえ!-大震災の現場を歩く』所感
2012-02-07
昨日の小欄に記した刊行記念対談の翌日、有田さんの新刊著書を一気に通読した。対談で紹介されたエピソードを始め、3.11直後から参議院議員・有田芳生が、本分とするジャーナリスト魂を最大限に発揮して、被災地の「今」を歩き見つめ聞いた記録的エッセイである。多くの政治家たちが、被災地で町長などのトップが発言する「整理された情報」を建前として聞いて“視察”したと胸を張ったりする中で、有田さんは、「この眼で見、この耳で聞き、この鼻で臭いをかぎ、全感覚を開放して全ての現実に身体を浸すことである。」と記しているように、「生もの」の情報に一つでも多く接しようと被災地を歩き続けたのである。これは、対談で語り合った藤原新也さんからのアドバイスを元にした行動であるという。こうした記録を文章化し書籍として刊行する意義を、冒頭に「忘れ得ぬものを記録するために」として記す。その言葉の一部を紹介すると次のようにある。
「「3,11」について数多くの書籍が著されているが、文章(言葉)は私たちの認識に働きかけ、どれほど現実を動かすことができるのか。」
「「あったこと」が忘れられるのではない。やがて時間の経過とともに重要な問題が風化していくのではないか。そうした恐れだ。」
それはまた、有田さんが17年前から追いかけてきた「オウム的状況」が、いまだに息づいたままで、原因が社会的に解決しないまま、「多くの課題はあっという間に揮発した。」ことからも、「私たちは「忘れやすい」民族なのだ。」と警鐘を鳴らしている。
それゆえに、この「2011年3月11日以降」は、「私たち一人ひとりの課題」なのだと述べる。「まずは一人から行動していくことである。私もまた単独者として進んでいく。」という言葉は重い。まさに僕たち一人ひとりが、「文章(言葉)」を重んじて、一人から行動すべきであることを切実に考えさせられるのである。
第1章「被災地を歩く、見る、聞く」には、最初に、鍼灸治療ボランティアの竹村文近さんらの一行と月に1度は被災地に入り、その現場で多くの方々の言葉を聞いた記録が記されている。中でも、「低体温を通り越して「冷体温」になる人がいる」という一節で、実際に治療を受けているお年寄りの脇腹に触れて驚いた経験などは、まさに現実に触れて実感していく有田さんの姿勢がよく表現されている。続けて、「テレビは交通の便のいい避難所ばかりを取材する。」や「被災した歌手クミコさんをさらに落ち込ませたもの」などの記録の一つ一つが、「生もの」としての現実味と問題点を炙り出す視点から、明快な文章で綴られている。
第2章「ツイッターを駆使しての被災地救援」では、ツイッター・ブログを通じて被災地へ呼びかけ、その「声」を「政府の対策本部」に届けた「行動」の数々が描かれる。災害に見舞われた時に、日常的に使用している連絡手段として何が有効に機能するかという実例として、僕たちの明日への指標ともなる内容である。どんな時にも「一人ひとり」として行動する為に、心得ておくべき経験的教訓ではないだろうか。
第3章では、「被災地の「食」-生産現場は訴える」では、被災地の酪農家・カキ養殖・漁師のお三方の被災から復興への苦難の過程を、生の声から書き起こしている。想像を絶する現実に直面しても前進していこうとする方々の姿からは、僕たちがどのように“今”を生きなければならないかという課題をもらうような重みを感じる。
第4章「大震災からの復興へ向けて」では、「大津波は4年前に警告されていた!」という事実を取り上げて、いかに課題が先送りにされた結果、このように深刻な災禍に見舞われたかが実感できる。改めて僕たち「一人ひとり」が、未だ解決し得てない、また来たるべき災禍に備えて「行動」しなければならないかを考えさせられる。危険が警告されながら、それがあまりにも甚大だという理由で放置される状況は、3.11以降もまったく社会的に変化していないではないだろうかという懸念を強く抱く。最後に、有田さんなりの「東日本大震災復興計画私案」が示されて結びとなる。
これは、3.11以後の一つの記録である。だが、それは過去のことではなく、「未来」を見据えた展望をもった提言でもある。こうした「単独者」の声が、本来は政治の表舞台に更に奥深く浸透しなければならないはずだ。
「一人ひとり」の「行動」を自覚するためにも、今この時期であるからこそ、多くの方に読んでいただきたい一書である。
自らが何らかの形で被災者であり、将来の被災者であるという当事者意識を持つ為にも。
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