問題は悩みにしないこと
2012-02-01
月末〆切で書物の校正に追われている。文章はもとより、一文字一文字に対して別な神経を尖らせて読み込み、赤を入れる。眼の疲労はもとより、通常とは違った神経が摩耗する中、時折心に潤いの点眼薬が欲しくなる。音楽を掛けたり、名言を音読してみたり、脳に入力・出力する行為を挿し込んで、いささか回復した気になって机に戻る。そんな中、ふとTVを付けるとNHKBSプレミアムで「旅のチカラ」をやっていた。次の校正に戻ろうと思ったが、ついつい画面から流れてくる内容に惹き付けられて、しばし脳の休息にと、予定外の情報を入力し始めた。作家・井上ひさしさんの娘さん・麻矢さんが、イタリアはボローニャ地方を旅する内容だった。
父・ひさしさんに反発して生きてきたという麻矢さん。しかし、呼び寄せられ、劇団「小松座」に関わることを求められて、その後ひさしさんは他界した。その流れで、麻矢さんは、「小松座」の運営に本腰で取り組まねばならなくなった。その葛藤を、まさに「旅のチカラ」が溶解していくという父娘の愛情再生物語であった。
イタリア・ボローニャでは、庶民の身近に演劇が根付いていた。子供向けの物語を演劇化し、成長の糧を発見させる。詩の朗読を行い、言語障害のある方が機能を回復させる。知的障害者の方が、社会更生するために朗読を行い、関わる側も刺激を受けて心を澄ませる。親子であやつり人形劇を演じ、その関係について新たな発見をする。井上麻矢さんにとっても、演劇が生活の中で機能し、家族関係や地域での人々の人生そのものを支えていることに、深い感銘を受けていたようであった。
そして井上ひさしさんの名作戯曲「父と暮らせば」イタリア版を、現地の劇団が上演。原爆体験した女性が、父を死なせてしまったことを後悔しながら暮らしていると、その死んだ父が、一時的に蘇り共に暮らし、その中から父娘関係の機微を発見していくという物語。その脚本の巧妙さに現地の人々も深い感動をもって鑑賞していたようだ。その公演に関わった麻矢さん自身が、現実に亡くなった父・ひさしさんとの関係を見直し、今の生き方にアイデンティティーを発見するという「チカラ」をもらうという番組の構成だ。
麻矢さんは、反発していた父・ひさしさんのことばを思い出す。
「演劇にしかできないものがある。」
「作品の中に全て答えはある。」
そんなことばに酷似する感覚が、イタリアという欧州の土壌において現実に機能している。
現地博物館の館長は、
「困難があったら過去から学ぶのです。」と語り、
「アイデンティティーとは、本質的なものを遺しながら、変革していくことなのです。」とも語る。
最後に麻矢さんが、ひさしさんが口癖のようにいっていたいたことばを紹介する。
「問題は問題として解決しなければいけないよ。問題を悩みにしてはいけない。」
欧州に旅した「チカラ」が、真に父の遺したものを娘が引き継ぐ心を起動させる。
ことば・演劇・旅それぞれの「チカラ」
映像から「チカラ」をもらい、自分自身も「本質的なものを遺し、変革し始めた」気がした。
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