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「火の用心」に対する住民意識

2012-01-26
 いつものように夕刻になって近所の豆腐屋さんに足を運んだ。すると先客の地元のおばさんが、何やら豆腐屋のおばちゃんと長話をしている。別に急ぐわけでもないので、そのまま何となく話が聞こえるような距離で待機していると、その内容には深刻さが伴っているようだった。話の終わりに「お大事にね」といって、そのおばさんは豆腐屋さんの軒先を立ち去った。小生の順番になって、おばちゃんに買いたいものを告げつつ、「どなたか具合でも悪いのですか?」と問い掛けてみた。するとおばちゃんがいうには、豆腐屋さんの通りを挟んで向かい側の家が3軒ほど、火事で焼け出されたのだという。すぐさま振り返ると、通りから見える家の外観は元の状態を保っているが、家財が通りに投げ出されていたり、窓が割れていたり中は消化した後の惨状であることに気付いた。そのことに言われなければ気付かない自分の不甲斐ない感覚を悔やみつつ、気付いた途端にあの火事後の焦げた臭気が鼻を突くのが自覚できた。その火事は、小生が大学で研究発表をしていた先週土曜日夕刻に出火したのだという。もし、家に居たら現場がよく見えるのはもとより、必ず駈け付けていただろうという妄想をしながら、豆腐を受け取った。

 現場の隣は懇意にする酒屋さん。現場との間にわずかな隙間があって延焼は逃れたのだと豆腐屋のおばちゃんはいう。早速、酒屋さんの店先に出向いて「火事見舞い」を申し上げた。酒屋の店主であるおじさん・おばさんも、その時の恐怖を語った。現場側の窓をすべて閉鎖し、店もシャッターを下ろし延焼を防ぐ構えをとったという。店内に陳列された大量の酒瓶やビール缶などを、地元の方々が外に運び出そうかという協力を申し出たというが、「外に運び出したところで置く場所もねぇ~からね!」と酒屋のおじさんは、それを断ったという。確か土曜日夕刻は雨模様。大切な商品が雨に濡れるのも問題があったのだろうが、それをきっぱり断り堂々と構えていたおじさんの決断が正しかったようだ。幸い延焼することもなく火は隣の家までで消し止められた。店の商品にも何ら被害はなかったのだという。それにしても火炎が伸びて迫り来る恐怖を、おばさんは半ば涙目で小生に語ってくれた。

 懇意にする酒屋さんを中心に、この火災を描写してしまったが、当事者である家の方々には、心からお見舞いを申し上げたい。中には留守中の方もいて、帰宅したら寝床も何も無いという状況であったという。もちろん消化の為に家の中は水浸しである。もし自分の身にということを考えると、改めて火事の恐怖を身に染みて感じざるを得なかった。


 ここで特筆すべきは、酒屋さんに火が迫るという段階で、地元の方々が「商品を運び出そう」と協力を持ちかけたことだ。冷淡極まりない地域自治が一般的でもある東京都心部で、こうしたご近所から協力の声が突発的に寄せられる関係というのは貴重であろう。もちろん酒屋さん店主夫妻と若旦那である息子さん夫妻の人柄によるものであるのも十分に納得できる。だがしかし、都会の冷淡さは、時としてこうした惨状に対して高みの見物するか、場合によると見て見ぬふりをしかねないのが実情かもしれない。それがこの酒屋さん、豆腐屋さんが向かい合う通りには、未だ人情の息が通っていたのだ。豆腐屋さんのおばちゃんの話では、周囲の人々が「消火活動が遅い」などと声を上げて、その成り行きを見守っていたという。

 これは、東京下町の風景がいまだ留まっているということである。小生も下町育ちであるから、幼少の頃から火事となると現場に駈け付ける“習性”がある。その火事現場をまざまざと目の当たりにして、「火事は絶対に起こしてはいけない」と子供ながら気を引き締めたものである。ある時は、小生の父が誰にも“負けず”一番に現場に到着したことがあった。その際に、消防士がポンプからホースを伸ばす作業を、父が手伝っている姿を見たことがある。火事の際は、近隣住民で助け合うという精神を、直接父の行動から学んだ経験であった。

 遡れば、江戸時代「火事と喧嘩は江戸の華」といわれた。現在よりも火事が頻発し延焼しやすい街の状況下。そこで火消しが活躍し、長屋の住民たちがお互いに助け合って火事を防いだり消化に努めたことだろう。「組織的」などという理屈ではない地域自治が存在していたはずである。家がいつ焼失するかわからないという刹那的な住居観があればこそ、住民の連帯を自然発生的にもたらしていたのだろう。


 4年以内70%と試算された首都直下型地震。
 専門家は、やはり一番危険なのが火災の延焼だという。
 耐震構造や防火体制の強化ばかりが喧伝されるが、やはり何より大切なのは住民の地域的自治をおいて他にないのではないかと痛感する。

 東京に住む誰もが自分の“今日”の問題として考えておかねばならない課題である。
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