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藤原和博氏著『坂の上の坂』所感

2012-01-05
 人生のエネルギーカーブというのを描いてみたことがあるだろうか?横軸が生まれてから死に至るまでの年齢の進行。縦軸がその時々におけるエネルギー量である。標題に掲げた書の序に示されていたこのグラフを、小生も試みに描いて可視化してみた。幼稚園・小学校時代の低調さから、中学高校で部活参加によりエネルギーが上昇し始め、最初に大きく跳ね上がるのが大学受験時。その後、就職し流れと勢いに任せた受動的な時期を経て、社会人として大学院に入り、二度目のエネルギー上昇。未熟な個人的生活状況で停滞期もあるが、その後博士論文提出に至るまで上昇し今現在に至る。ということで3度の最高点に近い上昇カーブが認められる蛇行曲線になる。このエネルギーカーブは、常に上でもあり得ず、下降して助走をつけて上昇するという物理的現象にも似た形式に誰もがなるようである。著者・藤原氏も幾多の難所を乗り越え、今の位置に至っているという。

昨年の4月に、「デジタル教科書協議会」中間報告会で藤原氏の話をライブで聴いた。何よりその暑苦しいほどのパワーに目を見張った。この自信に満ちた訴える力は何だろうと不思議にさえ思っていた。杉並区立和田中学校で民間からの公募校長となったのはあまりにも有名だが、その時の様々な取り組みを記した著書も読んだ。そこには、教育畑のみで生きてきた人間では為し得ない、視野の広い教育改革が実行されていた。ただ、それは藤原氏だからできることという、特化した改革なのではないかという疑問符が付くものでもあった。

だが、和田中学校長としての藤原氏のあり方を、彼の人生全体の歩みの中に俯瞰すると、先述した疑問符が溶けるように腑に落ちてきた。リクルートの優秀な社員であった彼が、病気とも闘い自分探しの欧州在住を経て会社との間で契約社員(フェロー)となり、その後に和田中学校の公募に挑む動きは、一時代の生き方として示唆的ですらある。この本の副題に示された「55歳までにやっておきたい55のこと」というのは、単なる観念からの押し付けではなく、彼の挑戦する心を失わない苦闘の末に示された方向性であることが理解される。

藤原氏が40歳を越えてフランス滞在で得た成熟社会での生き方への憧憬。自分が何を追いかけたいのかが問われ、「考える」こと、すなわち「哲学」が必要になってくるという実感には深く共感できる。ゆえにパリの人々は、「人間と人間の間を取り持つコミュニケーションにこだわっている」のだという。また、企業が将来的に安泰であり続けるかが不透明な時代において、「企業に棚卸しされる前に、自分の棚卸しを」という主張も首肯できる。「管理職にならなければならない」という企業人的考え方は、「画一的な「成長社会」の呪縛」であると斬り捨てる。「「組織に埋没」するとは、組織に人生を委ねてしまうこと」だとし、それは「自分の人生そのものを賭けてしまう博奕のようなもの」だと断じている。その上で、「会社が蓄積した資産を使って、サラリーマンとして自らを磨き上げる。そうすれば個人をブランド化することも可能です。個人をブランド化できれば、それは会社にとってもプラスになります。」という考え方に至るのである。これは自らが、そのような道を歩んで来た、藤原氏ならではの組織内処世術でもある。だが、なかなかこうした生き方に踏み出せず、上司を始めとする企業内人間関係に押し潰されてしまいそうな方々が世間には多いのではないだろうか。

このように、「個人」として「哲学」を持った生き方をしていれば、まず名刺の肩書に依存するような感覚から脱局でき、「私は何をしたのか」が公言できる人間になれると藤原氏は説く。転職如何は別問題としても、自己の「履歴書」を書いてみたときに、「具体的な仕事内容と成果」「自分のキャリアで何が売りか」「個人的に続ける社会的活動」が示せるような生き方が求められるというのである。

以上のような企業との関わりにおける処世訓のみならず、「個人」で参加できるコミュニティーを確立させておくこと。(企業内人間関係のみで生活しないこと)パートナーとの関係性を見直し、50代からの30年以上の人生に意味を持たせること。住まい・お金などにおいて、前時代の呪縛から解放されるべきであると、人生後半戦への生き方が実体験をもとに語られている。

『坂の上の雲』の時代とは、格段に寿命も違い社会も違う。そんな中で待ち構えているのは、「坂の上」の「坂」のなのだというタイトルに示されたメッセージは、それが困難であると同時に、豊かさを享受するチャンスであるとも受け取れる。そして人生後半戦を斜陽の処世術ではなく、そこでエネルギーを再び上昇させる生き方が必要だと説く前向きさの提示でもある。それを、50歳半ばとなった藤原氏が説くのだが、彼の30代40代での生き方が示されているだけに、同年齢であるよりもその「坂」をいまだ仰ぎ見る世代にこそ贈られるべき応援メッセージとなっている。

人生のエネルギー曲線を恐れずに描いてみよう。
きっと今現在の自分が見つめられる。

実はこの本、他の書籍を探している際に発見し衝動買いした1冊である。
こうした邂逅により何かが変化していくのが、また人生なのである。
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