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「絆」という名で出ています

2011-12-28
 世間に「絆」という言葉が跳梁跋扈している。東日本震災後、家族・夫婦・友人・知人などの間で、「絆を深めよう」という文脈で使用され、人々が助け合い、心を結び合い、情を通い合わせる、というような語感として理解されているように見受けられる。例年、京都清水寺で発表される“今年の漢字”にも、やはり「絆」が選出された。ちょうど1年前には京都を訪れ、清水寺で2010年今年の漢字「暑」の実物を見ていたので、それと比べると、甚だ趣も語感も字の放つ力も大きな相違があるように感じられ、今年1年の激動を物語る漢字としては相応しいのかもしれない。

 ただ、今やありとあらゆる公共の場に、この「絆」「きずな」という語が氾濫し過ぎている。被災した方々によって実感を伴って使用された際の語感が、甚だしく希釈され軽んじられているような気がしてならない。芸能人による軽々しい発言。利益拡大という目的でこの語を組み込んだ広告。些細な宴会での挨拶、等々と溢れ返る「絆」という文字は、もはや記号にしか見えず、有名無実とさえ受け止めてしまいたくなるほどで、眼にすると嫌悪感さえ覚えることもある。この言葉によって救われたと感じている方々には、甚だ失敬であるかもしれないが・・・。

 職業柄、言葉や語感に対して常に敏感でありたいと願うゆえ、こうした作用が心の中で起きる。すかさずその文字の語源などに遡って調べてみたくなるのも職業病だ。すると、すでに世間でも指摘されてきたが、「絆」という語は決して好感が持てる文字でないことがわかる。漢字としての語源は、「ひも(糸)をぐるぐると巻いてからめること」(『漢字源』学研)であり、「単語家族」として「攪拌」の「拌」(固まったものをぐるぐると混ぜてほぐす)の文字が挙げられる。漢語の名詞として使用されると「ほだし・きずな」は「馬の足にからめてしばるひも。また、人を束縛する義理人情のたとえ。」。動詞ならば「つなぐ・ほだす」で「しばって自由に行動できなくする。」ということになる。類語に「紲」があり、この文字となると「犬馬や罪人をつなぐつな」という更に限定的な意味となる。
 古語の場合は、どうであろうか。中世の歌謡集『梁塵秘抄』には「御厩(みまや)の隅なる飼い猿は(きづな)離れてさぞ遊ぶ」という例が物語るように、「動物を繋ぎ止める綱」の意味である。また、『平家物語』(維盛都落)に「(若君や姫君が走り出て来て父親を)慕い泣きたまふにぞ、憂き世の(きづな)と覚えて」とあって、「仏道修行のさまたげとなる離れがたいつながり。」とある。(以上。『全訳読解古語辞典』(三省堂)より)

 このように、漢語や古語においてはあくまで「自由を奪う束縛」という語感が強いことがわかる。現代語の訓読みとして「ほだし」(動詞「ほだす」)があるが、この読み方であると「思考・行動の自由を束縛する物事」という意味で、「手かせ・足かせの意」に由来する。(『新明解国語辞典第6版』(三省堂))確かに「絆創膏」という最近は漢字で表記されない語彙も存在するので「傷口を保護し健全に回復させる」といった語感がないとも言えない。言葉は時代・世相を反映し変転するものであるから、一概に「絆」が間違った使用法だと弾ずることもできないだろう。
 だが、やはりここで注意したいのは、無意識下に埋め込まれた言葉の影響力である。前述した「絆創膏」のような傷口への救世主という語感、つまり心痛めた人々が協調し奮起し復活することを支援する連帯的共同体を構成する概念で使用されるならば、それはそれでいいだろう。しかし、宣伝広告などの利益誘導に表示されたり、精神的な強制力が働く場面での使用には、相応しくないという認識を持つべきだと思うのである。少なくとも強制的な上から目線で「絆を深めよう」などという発言を、安易に聞きたくないのである。

 更に深読みをするならば、世間に跳梁跋扈するこの言葉が、東日本大震災以後の日本において生活する上で、何者かによって「ぐるぐる巻きにされるほど、思考や自由の束縛を受けなければ立ち行かない。」ことを暗に知らせる喧伝であるとしたら恐ろしい。我々の生活は、少なくとも東日本での生活は、「自由の束縛」を何らかの「絆」によって受けていると言えるのかもしれない。だとしたら、「絆」という語を我々は、全く正反対の意味で、真摯に謙虚に深い配慮と洞察のもとに受け止めなければならないはずだ。もちろん、「自由な言論・表現」の崇高なあり方の維持を含み込んで、「束縛」という記号としての「絆」に立ち向かわなければならないのかもしれない。


 言葉の二律背反。
 漢語と和語との融合による日本語の重層性に自覚的であるべき。
 世間に跳梁跋扈するものには、せめて一時でも穿った視点を持つことを忘れずにいたい。
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