クリスマスイブに『笑ってさよなら』―入川保則さん逝去を悼む
2011-12-25
半年前の6月24日、ご著書の『その時は、笑ってさよなら』(ワニブックス)に日付入りでサインをいただいている。「盲導犬サフィー、命の代償」(秋山みつ子著・講談社)の朗読会場でのことだ。これまでにも、俳優さんの朗読会にはかなり足を運んでいるが、入川さんのそれは別格だと感じた。それは朗読すべき対象作品の世界が訴えて来るのではなく、入川さんという人間の生き方を通して「命の代償」という作品テーマが“語られて”いたからだ。まさに「命を賭して」という迫真の朗読会という深みに涙腺が緩んだ。“名脇役”と称された俳優・入川保則さんが逝去された。昨年、癌が発覚したが延命治療を拒否し、今年3月には「余命半年宣言」の会見を行った。しかし、その後も、前述の朗読会や歌手デビュー(CD発表)、映画への参加に『水戸黄門』出演と精力的に活動されていた。3月の時点で医師による「余命半年」診断を、一笑するかのように超越し、夏以降もお元気で活動を続けられていた。
入川さんとは、馴染みのワインバーで何度かお会いした。ある日、席が隣になったのをいいことに、図々しくも入川さんに質問をしたことがある。
「私は朗読表現の研究をしているのですが、入川さんが朗読する際に一番大切にしていらっしゃることは何ですか?」と。
この質問に対して、実に懇切丁寧に笑顔で自分のお考えを小生如きに力強く語ってくれた。それを聞いた後に、6月末の朗読会を拝聴し、入川さんが語る「実践」を目の当りにして更に理解が深まった。俳優さんの朗読は「読む」のではない、やはり作品世界を「演じて」いるのだと。しかも6月の朗読会では、確実に主役的な存在でありながらも、入川さんの読み方には人生が表出したのか「脇役」的な雰囲気が感じられることで、『盲導犬ソフィー』の世界が余計にリアルに劇場に現れてきたようであった。
音声表現としての「朗読」研究者として、この入川さんとの出逢いを大切にし、何らかの形として遺したいと改めて誓う。さすがはダンディーな名脇役である。クリスマスイブに、多くの方々に入川さんなりのプレゼントを置いて、天に召されて逝った。ご冥福を心よりお祈りする。
街はまた“日本”のクリスマスイブだ。“日本”のというのは、誤解を恐れずに言うならば、どこか偽装的で作為的な臭いがするのである。この日とばかりに街にはカップルが溢れ返り、デパ地下あたりの有名ケーキ店には長蛇の列ができ、イルミネーションが見られる地点には慣れない運転の車までもが氾濫する。この日を特別視するなら、日頃が頽廃していてもいいのか。生きている以上、“特別な日”はない。毎日が生きるという貴重極まりない時間なのである。
入川さんは、人間が生きる意味を自らの身体を持って表現されていた。
こんなに格好いい男を身近で初めて見た気がする。
入川さん!ありがとうございます。
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