星空をどう見るか?
2011-12-14
夜空を見上げたとき、人は何を見ようとするであろうか?大抵が“星”そのものを見ようとするのが普通の発想だろう。もちろん、月齢に応じて月明かりを楽しむこともできるし、ただ自分の思いにのみ浸るために夜空を背景とすることも可能だ。だが、ある場所においては、星の光がない“暗黒”な部分に注目し、そこに様々な造形を見出したこともあったと知った。「光らない部分」に焦点を当てるという意味で、実に興味深い発想である。南米大陸、現在のチリにある高地に栄えたインカ文明。そこは雨が少なく空気が澄んでいるので、天空にあまねく星が見え過ぎるゆえ、星座を点で結ぶことができず、暗黒の闇の部分に様々な動物の形などを見たのだという。南米特有なリャマを始めキツネにウズラなどなど。周囲の光る部分によって浮き出した漆黒の闇を焦点化する逆転の発想。この南米の高地をプラネタリュウム作家・大平貴之氏が訪れるというNHKBSプレミアム『旅のちから』を視て教わったことである。
この場所はアタカマ高地と呼ばれているが、現在、日米欧の共同プロジェクトとして史上最大規模の“アルマ電波望遠鏡”の建設が進行中である。標高2200m付近で巨大なパラボラアンテナを組み立て、それを水平に保ちながら坂道を登ることができる超級の車両に積載し、標高5000m付近まで時間を掛けて輸送している。2013年には計画している66基のパラボラアンテナが全て設置完了し、今までは探索不可能であった宇宙の神秘を格段の精度で一つ一つ解明できるようになるという。日本製・米国製・欧州製の三種の電波望遠鏡があり、それぞれが競い合って技術開発を試みている。国家間の争いもこうした切磋琢磨に落とし込めば、地球規模で新たな進歩が格段に向上する証左となるプロジェクトであろう。兵器開発などへの浪費を抑え、人間はもっとロマンに向けて金銭を投入すべきだとつくづく思う。
アルマ電波望遠鏡を使用すれば、世界一の星座の中にある“闇の星座”に迫ることができる。銀河の中に存在するガスを、電波によって捕捉することができるからだ。ガスの存在を確認することができれば、星が生まれるまでの歴史を解明することに繋がるという。大きな渦を巻いた銀河系の一部である私たちの棲む太陽系。更にはその銀河系外にある暗黒星雲。宇宙の果てしなさはまさに無限であり、地球という存在自体が実に微小なものであることに気付かされる。
その微小な地球上で、我々は“光”あるものだけを追い求め、貪欲に争い、殺し合い、自らの存在を危ぶむような開発を進めている。もし「宇宙の真理」というものが存在するのならば、“暗黒星雲”は地球人に語り掛けるであろう。「闇の部分にこそ真理が潜んでいる」と。インカ文明が見つめてきた天空への思想からも、現代人は多くを学ばなければならないのかもしれない。
番組の中で、大平貴之氏は語った。
(この高地にいると)「地球という球体に張り付いて、宇宙空間を観ているようだ。」
人類悠久の歴史と共に、宇宙という果てしないロマンの存在を知る。
『旅のちから』以上の何かが湧いてきそうだ。
自己という人間存在を考える意味で、南米の高地に思いを馳せる。
- 関連記事
スポンサーサイト
tag :