日米相互に学び合う視点
2011-08-23
カンザスシティーにあるバフェスタイルのレストランで昼食をとった。日曜日なので家族連れが多い。すぐ脇の机や椅子を祖父母から孫まで座れるよう、横広に複数を合わせる家族連れがいた。そのお陰で通路がかなり手狭になっていた。そこへお皿に食事を載せた女性が通る。すると彼女は通路にある椅子を足蹴にして奥に寄せて通っていった。それに続く女性の子供らしき幼少の可愛らしい女の子が、母親を真似て椅子を足蹴にして(もちろん椅子は動かない程度の力で、動作を真似るだけの行為なのだが)通り過ぎていった。こんな小さな光景を見て、親の教育は即座に子供に影響を与えることを痛感した。アメリカ人の行動は日本人からすると大胆に見えることが多々ある。野球場でも男女問わず座席を跨いで前列の席に移動するし、その際に椅子の座面を土足で踏んでも何ら罪悪感はない。単純に”土足文化”であるからと考えれば何と言うこともないが、他人が座る場所を土足で踏むのには抵抗がある。ましてや学生時代のバイトで、球場の椅子を一つずつ雑巾で拭いたことのある身としては尚更だ。
そうかと思うとアメリカでは、列に並ぶこと等には妙に寛容である。レストランの順番待ちでも、トイレの空き待ちでも忠実に並んで乱すことはない。また街中やハイウェイで車を運転する時、たいていウインカーを出せば穏やかに割り込ませてくれる。日本のように脇の車線からは入れないというような態度で譲らない意固地なドライバーは殆どいない印象だ。
今回の渡米のフライトの間に、桑田真澄氏と佐山和夫氏の対談集『野球道』(ちくま新書)を読んだ。そこには桑田氏の野球観が多々表出している。その中でMLBを経験したことが、桑田氏にとって大きな経験であったことが語られている。そこで大変重要なのは、アメリカの野球から学ぶことは多いが、日本の野球の方が優れた部分も多々あるということの指摘である。技術的な精度の高さや道具を大切にする姿勢などは、日本の野球が世界に誇れる部分であると言うのである。ゆえに”総合力”で優るということが、日本野球のレベルを引き上げてきたというのだ。そんな利点がMLBを経験することで、桑田氏には身に染みて感じ取れたということのようだ。
考えてみれば小生の人生においても、どこかに”アメリカ”という憧れを持ち続けてきた部分がある。それは時代相でもあり、また語学への憧れでもあり、個人的には愛好する野球の本場であるという意識の表れであるだろう。たぶん、多くの日本人がアメリカに対して大なり小なり、また好感を持つか嫌悪するかという差異はあれど、どこかで意識している部分があるように思う。現にスーパー等の大型商業施設の繁栄・ファーストフードという利便性の享受・Web環境での様々な媒体のあり方などは、アメリカの発想に依存する部分が大きいのは否めないであろう。
毎年のようにアメリカに来ている身として思うが、単なる”米国礼讃”だけでいいのかという思いがある。行儀の悪さ・個人商店を窮地に追い込む量販店的経済流通・自動車社会に代表されるエネルギーの大量消費社会等々・・・。アメリカに対して批判する視点なくしては、これからの日本社会もたいそう心配になるのだ。
桑田氏が「野球」に関して「道」を述べたように、日本が誇れる力が多々ある。たとえそれが本家アメリカを発祥にした分野であってもである。行儀・マナーのよさ。人々の冷静さ。物質を大切にする文化。そんな総合力で、日本が世界から評価される部分は多いはずだ。
批判的視点を持てなければ、本気で愛好したことにはならない。
野球に代表されるアメリカ文化が好きであるがゆえに、そんな観点を持ちながら滞在を続けていきたい。
さらに言えば、この広い国にも地域・地域での差異が多々あることも味わいながらである。
単なる憧憬のみではない日米相互批評という立ち位置に、もっと日本人は怖じけることなく堂々と立つべきである。
そこに真の学び合いがあるはずだから。
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