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温室コミュニケーション―『ニッポンには対話がない』雑感(3)

2011-06-24
 「いじめ」は、たぶん人間的なコミュニティーがあれば必ず存在するものだ。だが、その意味合いには幅がある。幼少の頃を思い出すと、たぶん一般的には「いじめ」られていると言わざるを得ない子が、実は集団内でマスコット的な存在であったりした。鬼ごっこや球技をする際には、「おみそ」(地域によっては「みそっかす」)などと呼んで特別扱いされた。何となくからかわれているのだが、皆から擁護される特権を持っていたりした。


 『ニッポンには対話がない』も第3章と最終章へ。

 「高校ぐらいまで温室のようなコミュニケーションのなかで育っていて、外では嵐が吹き荒れているような状態。」
 「「やさしいコミュニケーション」と「厳しい現実」とのギャップが、さまざまな社会病理現象を引き起こす。」(同書P131)


 一時期、流行した「KY」という言葉が象徴的に表現しているように思う。子ども同士のコミュニティーの中で、「対立」を逃れようとする「やさしい」雰囲気が蔓延する。しかし、大学生となり現実社会に放り出されると就職は厳しく、たとえ就職したとしても職場で厳しい対応が為され、「病理的現象」を起こし引きこもる。小中高において厳しい現実を知る機会が、虚構的にも構築されていない。むしろ教員も親もそれを排除する方向に躍起になる。地元の公立中学校には「厳しい現実」があるからといって、受験に夢中になり「温室化」した私立中学を選択する。ただでさえ「温室」なのに、更にその中でも「嵐」の体験を避けようとする。


 「「その人の気持ちになって」考えることと、「もし自分がその人だったらどう感じるのか」を考えることの違い。」(同書P135)


 前者を「シンパシー(sympathy)」、後者を「エンパシー(emupathy)」と規定する。そして後者は、「自他の区別を前提としたうえで、意識的・能動的に他者の視点に立ち、他者の立場に置かれた自分を想像することに基づいた相手理解のこと。」とある。前者が「同調」「感情移入」とされるのに対して、新しい概念で「自己移入」と訳されているという。それを教育の中で実践するのに、演劇的要素が有効だと同書は説く。自分の中の他者を発見しようとするからである。


 「崩壊したコミュニティーを再生するために、芸術文化振興、表現教育を徹底的に行った。そこにいまのイギリスがある。」(同書P149)


 そんな点から考えると、日本の現実は危機的だと言わざるを得ない。かろうじて東日本大震災という自然の威厳がもたらした困難によって、多少なりとも目覚めようとしているが、それも「喉元過ぎれば・・・」の感がある。前回も触れたように、芸術文化振興は誤った発想を起点としており、表現学習が教育現場に浸透するには、いまだ時間が必要である。

 2000年PISAで話題になった「落書き」問題。同書でもこれに触れて、日本では「落書きはいけないもの」という前提で考えるから、問題そのものが理解されなかったという。確かに日本の教育では「~してはいけない」が氾濫し、「~しよう」は少ない。その反動か、電車内のマナー向上広告に、「家でしよう」といったコピーを見る。車内で他人に迷惑を掛ける行為は、自宅でせよというのである。この「~しよう」型広告は、むしろ「~してはいけない」が大量にあることを逆手に取ったものだと考えてよいだろう。

 学校内は「禁止」事項の宝庫である。ゆえにその環境下では、事項を忠実に履行さえしていれば、優秀と見なされる。多くの子どもが自らの考え方に反して「禁止」事項を遵守する。だが一たび学校内から解き放たれた高校生などが、電車内で他者の迷惑を顧みず、大声で談笑し合う姿を見れば、学校内での姿が彼らの真意ではないことはすぐにわかる。「携帯」なども「禁止」事項に含まれるから、むしろ通学中などに極端なマナー違反を堂々と実行する。

 規則で縛り本質を考えない教育は、学校内でしたたかにマナー遵守を装う偽善的な人間を養成し、現実社会の中で「未成年」「高校生」「制服姿」といった「似非特権」に隠れ、厳しさも味わうことなく、誕生からの月日のみが加算されていく。決して国際的基準での「大人」にならない。


 同書から「フィンランド型」や「演劇教育」の重要性を、様々な角度から学んだ。小欄では覚書の意味も含め、雑感にとどめるが、日本の教育界が考えなければならない課題が、山積していることは確かである。そして危機的に急務なのである。


 2011年が日本にとっての大きな転換点になるよう、自らを律して教育に取り組まねばならないと決意を新たにしなければならない。
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