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型と個性―『ニッポンには対話がない』雑感(2)

2011-06-23
 武道では「型」が重んじられる。少年時代に剣道の道場に2年ぐらい通ったことがあるが、まさに「型」に始まり「型」に終わっていたと記憶する。むろん、一定の昇段審査レベルにならなければ、「型」を査定されることはなかったが、稽古の始めから「型」が要求されていた。ただ、その稽古の最初の先導役を、我々参加者が毎回交代で指名されて行っていた。正座して「黙想」をし、基本的な打ち込み「型」を一通り行う。そこには先導役となる同年齢の少年ごとに、聊か動きの違いがみられ、毎回、その違いを観察することに興味を抱いていた。「今日行っている奴は、竹刀の穂先が低いか否か」とか。結局は、その観察が対戦の時に非常に大切な情報になっていったのである。


 『ニッポンには対話がない』第2章では、「型」の問題が論じられている。


 「はじめから「自由に発言しなさい、自由に書きなさい」と言うことは、ルールも道具の使い方も教えずにスポーツをさせるのと同じ。」(同書P99)


 2002年PISAショック。日本の国際的学力低下が大問題となり、教育界を揺るがした一大事であった。しかし、同書ではPISAの「型」を日本人の学生が知らなかっただけだと断じる。その後、09年の発表で「読解力」等が回復したとされたが、たぶん「型」に慣れる対処療法が功を奏したからであろう。短絡的に「回復した」と見るのは、やや早合点に過ぎないのではないかという疑念を持つ。本質的に日本の教育が改革されているとは思えない現状がある。


 「型通りに表現することの安易さと、型を破りたいという欲望のバランスのなかで、その融合点を自分で見出していく。」(同書P101)

 「その場その場で、柔軟に表現できるということが、型の本質。」(同書P103)

 「型を破って表現するとき、その人の表現力が飛躍的に広がる瞬間がある。」(同書P109)


 「型」があるからこそ、それを破ろうという欲望が表面化してくる。「型」は基準値とも言い換えることができるだろう。その「型」に対する柔軟性こそ、学ぶ者の特権ということができそうである。ところが、日本では「破る」ことが「悪」と規定される。特に学校現場ではそうである。一定の「前提」や「ルール」を守ることが「優秀」なのであり、寸分も違わずに「型」通りできる人物の評価が高い。ゆえに、個性が見えにくく自由度が低いため、創造的な発想が生まれにくい。現状の政治家や官僚を見れば、日本の教育の閉塞性も自ずから見えてくるであろう。


 「型の形式にこだわって、だれも使わないような不自然な言い回しをさせるような学習は、ことばの教育とは言えない。」(同書P105)

 「「ここでの表現はこうあるべきである」という、既存の表現観、価値観が強く入り込んでいる人は、型の形式から脱出できない。」(同書P111)


 学校教育の中では、実に「不自然さ」や「既存の価値観」で対処されることが多いことか。教師側も、理由づけが曖昧になると「ルールはルールだ」というような、逃げの価値観を押し付けて、自らの表現力(あるいは思考力の可能性もあるが)の低さを補う。「型」があるのはそれでいい。しかし、「型」に押し込むのは、判で押したような人間しか醸成しないはずだ。


 「「美しい日本語」「正しい日本語」は、排斥的になりやすい。ことばの美しさや正しさは、人に強要するのではなく、個人で追及すべきもの。」(同書P113)


 まさに同感だ。いつぞや「美しい国」などと提唱していた首相も、「型」通りの任務さえも終えることができずに、退任していった。「世は無常」こそが、この国の美しさとでも言いたいのだろうか。まさに「美しい」「正しい」などという価値観は、各個人の中に存在するものだ。唯一絶対の「美しさ」「正しさ」などはなく、それを宣言した時に、基準外のものを「排斥」しているという「醜さ」が顔を覗かせる。


 新指導要領の施行で、「日本文化の伝統」が重視され、それに伴い「武道」も必修となった。その「型」をどのような価値観で教えるかは、現場の教員次第なのである。


 遥か少年時代に剣道を学んだ道場の館長。今にして偉大な教育者であったと声を大にして言っておきたい。「型」と「個性」の峻別を柔軟に心得ていた。

 「型」は他者を見極める基準値、柔軟に観察せよ。遥かなる時間を経た人生の一端で、「武道」を学んだ意味を自らの心の中で紐解くのである。(続く)
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