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田原総一朗著「緊急提言!デジタル教育は日本を滅ぼす」所感

2011-04-27
昨日の小欄に書いた「デジタル教科書」に関連して、昨夏に上梓された田原氏の著書(「田原総一朗 公式サイト」著書)を読んだ。一昨日のパネルディスカッションにおいても、藤原和博氏とともに人の発言を遮るほど精力的に発言していた田原氏。その肉声を聞いたがゆえ、どうしてもこの著書は読んでおきたくなった。氏は自身でもipadを使用し、Twitterなどソーシャルメディアを利用するという。ゆえに、その考え方の論点を見極めておく必要を感じたのだ。

著書の論点は明快だ。日本の教育が「正解のある問題の解き方=誤りの排除」ばかりを行ってきたことを指摘し、「教育の基本はコミュニケーション」であると主張する。それゆえに、「問題を解く、正解を出すという作業が自己完結するデジタル教科書」の「利便性優先」なあり方に対して、徹底した議論を尽くすべきだというものである。既にネットによってしかコミュニケーションができない日本人が増えている現状を憂い、対面コミュニケーションの有効性を尊重する立場をとる。そして、関連した議論を行う上では、戦後教育改革を視野に入れ、大きな構図の中で教育を考え直し、「デジタル教科書」導入を位置づける必要があると訴える。

パネルディスカッションでもそうであったが、決して田原氏は「デジタル教科書」に全面的に反対という論調ではない。「デジタルに滅ぼされない教育を一人ひとりが考える」ことが重要だというのだ。田原氏の危機感から発したメッセージの意味は大きい。それは、これまでも「教育改革」などと声高に叫ばれながら、少なくともこの20年間に、教育の現場が後退はすれど前進していない事実を目の当たりにするからだ。



昨日の小欄にも、「教育現場は予想以上に保守的である」という趣旨のことを、国語教科書教材を例に書いた。それは、現場教員が自らの既得権にしがみ付こうとしているからに他ならない。定番教材で授業するという、一度確立させた自己の聖域を犯されまいとする心の動きである。もちろん、現場教員を擁護する立場で述べれば、他の教育活動や校務・雑務に追われ、教材研究に利用できる時間が極端に少ないとも言えるであろう。だが、やはり教員として重要な活動の柱は、教科教育と学級活動であるはずだ。校務・課外活動・保護者対応・諸雑務など、あらゆる活動に万能でなければ、教員として問題があるとする管理的な学校運営の考え方自体が、肝心な二大活動の領域を阻害する。逆に肝心な活動が十分に行えない教員などは、他の活動へ没入し万能さを主張し、教科教育が行き届かないことへの言い訳のように利用する。教員が既得権を主張する背景には、様々な悪弊が横たわっているのだ。

このような側面を考えると、教育を根本から問い直したうえで、「デジタル教科書」を導入することを、現場が受け入れるには、大きな障害があると言わざるを得ない。

授業そのものを(田原氏が指摘する)「問題を解く、正解を出す作業」だとしか位置づけていない教員は、完全に「デジタル教科書」という「黒船」に、自己の仕事を奪われる。検索機能や資料性・ビジュアル性の高い教材が、より正確に知識を提供し「自己完結」するからだ。だが、本来授業というものは「正解の確認」ではなく、様々な意見を知り議論を深めることで、多くの視点を獲得する場であるはずだ。こうした授業を成立させるためには、教員自身が多様な意見を認める柔軟な思考と、豊富な知識により練磨された思考力を持たねばならない。

「デジタル教科書」導入を見据えた教育の根本的な見直しには、現場教員の意識革命こそが鍵であるという自明のことを、改めて認識しなければならない。

その為にも教育に携わるすべての人間が、「正解のない議論」を様々な論点で行わない限り、同質の授業を現場で実践できる土壌は出来上がらない。政治・行政・有識者・教育現場・保護者等全ての大人が、未来ある子供たちのために自分自身の問題意識で考える習慣を付けなければ、「教育改革」など絵に描いた餅なのだ。要は、社会構造を攪拌し、思考回路を更新していくような国民的議論が必要であろう。


東日本大震災を経験した今だからこそ、危機感をもって教育にも目を向けることが求められているはずだ。



一昨日のDiTT成果発表会の感想を、副会長である中村伊知哉氏(慶應義塾大学メディアデザイン研究科教授)にコメントしたところ、次のような返信をいただいた。

「時間をかけてじっくり理解を深めていくことと、猛烈に突破していくことの二つの動きが必要だと感じました。」


DiTTには「猛烈に突破」していただいて、現場に密着した視点が持てる我々こそ、草の根でじっくりとした議論を行い、理解を深めて行く推進役であると自覚するのである。


田原氏の、人を遮るような発言による問題換気の方法も、この危機感を煽る為の機能を果たしていると、今は見ておきたいと思う。
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