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恋のちからー牧水を育てたもの

2023-09-16
「大人になると麻疹は重症化する」
喜びより苦しみ多き恋の果てに
牧水が歌人として表現を磨くためのバネ

俵万智著『牧水の恋』が2018年(平成30)に出版され、牧水の若き日の恋の微細な心の動きまでが評伝文学という文体で明らかにされた。そのまとまりを見るまでも、伊藤一彦先生によって歌表現を精巧に読み解くことで様々なことが明らかにされて来た。牧水の生き様を知るに牧水と共に生きた弟子・大悟法利雄の著作の数々は貴重だが、若き恋の顛末についてはある時期までほとんど不問に付されていた。それはやはり妻・喜志子が存命であれば、また恋人であった小枝子も比較的長生きであったこともあり、各個人に配慮して解き明かすのがためらわれていたわけだ。確かに現在でも「牧水の恋」を語る時、ここまで個人的な恋を没後95年に至り話されるのかという思いを抱かざるを得ない。だが偉大な歌人・若山牧水の短歌を語るには、この恋を語らずして全貌は見えないゆえ僕たちは恋の深淵を探究することを止めないでいる。

伊藤一彦先生がよく語るのは「大人になってからの麻疹のような恋」ということ。旧制延岡中学校でもほぼ男子のみの環境で育ち、東京の大学へ行っても詩歌の学びばかり考えていた。そこへ衝撃的な小枝子との出逢い、まさに高熱を出してもおかしくない境遇であっただろう。中学・高等学校が一貫男子校であった僕自身は、牧水の気持ちがわからないでもない。一転して大学は文学部という女子比率が高い学部に進学したが、今思うにその恋愛は甚だ不器用であった。入学して間もない頃からある人にだけ夢中になり、これも今思えば広く様々な女性に視野を広げていればよかったと悔やむこともある。しかし、なかなか意中の人に振り向いてもらえず「なぜ自分の好意は伝わらないのか?」と苦悩したがために、様々な面に眼を見開く大きな力になった。たぶん、社交性も洞察力も他者との関係性も、ましてや服装のセンスなどまでが当時の苦悩によって磨かれたのだと思う。相手の心が掴めず、また己の心が相手に伝わらないという恋の苦悩を若い頃に知るか知らないかで、生きるための社会性にまで大きな影響を及ぼすと思うのである。

不器用な恋から学ぶちから
一途な純朴さと愚直さの先に
恋の底知れぬ思いを「訴える」ために「うた」があるのだ。


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