「怪物」ーすぐそばにある怖さ
2023-07-01
カンヌ国際映画祭脚本賞監督:是枝裕和・脚本:坂元裕二
個人と社会を取り巻くすぐそばにある怖さ
カンヌ国際映画祭での脚本賞受賞を受けて、早く観たいと思っていた映画だ。だが個人的な感情の渦の中にある「怪物」というタイトルへの得体の知れない恐怖で、なかなか映画館に足を運べないでいた。予告編映像などにより内容の一部を知るにつけ、その怖さはさらに高まったといってよい。家族・学校を取り巻くこの国のいまの生きづらさ、小さな歪みを放置し続けるとやがて肥大化し「怪物」となるのか。決して他人事では済まされないこの国のどこにでもあるような怖さを、この作品は見事に描いている。それゆえに自身が怖さを現実のものとして体感しているようなうちは、タイトルにも近づけなかったというのが正直なところである。お断りしておくが、あくまでこの映画があまりにも巧妙にいま現在のこの国の実情を描いている素晴らしさゆえの所感である。
内容に踏み込んでの記述は控えるが、僕らが抱え込んでいる現代社会の歪みを深く考えさせられた。こうしている今でも日々のニュースで、殺伐とした内容が報じられ続けている。かつては、少なくとも1990年代頃までは、殺伐とした報道の背景について原因究明への言及があった。だがその件数の多さなのか、関心の低下なのか、事件の背景などが僕らの知らないところで闇に葬られるような感じはしないだろうか。混濁とした面倒臭いものには蓋をしてしまい、いかにも何もなく綺麗であったかのように体裁だけが整えられていく。その体裁を整えることにだけ躍起になる人たちがいて、小さな歪みが見えない場所で黴が増えるように蔓延ってしまう。教育という誰しもが直面する現場において、こうした体面体裁主義が横行することで現出する世界は怖すぎる。今此処で向き合う「あなた」へ、「人」としてどのように信じて愛することができるのだろうか?
レイトショーながら多くの観客が
上演後のなんともいえない混濁を脳裏に
深夜の宮崎市のどこにでもある街に妻と車を走らせた。
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