分かち合う心ー野球が生まれた国に捧ぐ
2023-03-15
大谷翔平のホームランボール佐々木朗希は死球を当てた選手にお菓子を
野球が生み出す「平和の作り方」を発祥の国へ
WBCというと2006年第1回大会米国戦、イチローの先頭打者本塁打とともに、同点となる好機に西岡剛のタッチアップがアピールプレーによって判定が「アウト」となった、所謂「ボブ・デービッドソン主審事件」が忘れられない。その際に試合後の会見で王監督は「野球が生まれた国で、こんなことが起きるのはあってはならないことだ」と冷静に語ったのを記憶する。走者に一番近い三塁塁審は米側のアピール後に「セーフ」の判定、だが主審が理解しがたい権限で判定を覆したのだ。誰が見ても現在なら「チャレンジ(ビデオ判定)」でも、明らかにタッチアップは成立している。米国代表の勝利を演出するかのような「自国忖度判定」が「自由と公正と民主主義」を旨とする国で起こったのは、僕ら野球ファンには許しがたい事件であった。だが「野球の神様」がいるとしたら、メキシコ代表の奮闘により僅かな得失点差で日本代表が勝ち進み、初代優勝を手にした演出に「ボブの忖度」は敵わなかったことになる。この事件のように、WBCは野球を通じて背後にある悪辣な文化も浮き彫りにし、反対に各国の持つ友好の文化の品評会のような性質を持つものだと思っている。
今回は日本代表が1次ラウンドを無敗で勝ち進んだ中で、「文化」的にMLB中継などが賞讃したことを記しておきたい。まず大谷翔平の豪州戦での本塁打のボールをスタンドで確保したファンが、周辺の他の観客にそのボールを順番に回覧して触れたり写真に撮ったりさせたことである。翔平の記念すべき歴史的なボールゆえ、仮にMLBの米国の球場なら乱闘まがいの争奪戦になっていたであろう。それを「(日本では)幼稚園から教わる分かち合う心」だと米国放送の実況アナは紹介したと云う。町内会の回覧板という慣習も未だに健在だが、僕らは「分かち合う」「助け合う」ことが文化として身についていることをあらためて確かめる事例であった。またチェコ戦で佐々木朗希が、死球を当ててしまった選手の振る舞いも忘れ難い。かなりの激痛で打席で倒れ込んだが、佐々木を怨む素振りも見せず一塁まで歩き、その後「大丈夫だ」と言わんばかりにファールグランドを走って見せ、佐々木に無用な心配をかけないような爽やかな配慮が見えた。そのチェコ代表のウィリー・エスカラ選手に対し佐々木は、宿泊しているホテルにお菓子を持参で謝罪に出向いたというのだ。MLBの慣習として死球を受けると相手投手を睨みつけ、場合によると自チームの投手が故意とも思える「報復死球」を打者に仕掛ける。まさに「戦争の論理」なのであり、乱闘に発展しかねない。日本野球には投手が死球を当てると脱帽して詫びる慣習があるのとは正反対である。死球を当てた「敵を攻撃」するのではなく、友好的に「お菓子」をお詫びの印とする。日本が歩んできた「野球」の歴史として、野球が生まれた米国へ捧げたいものは少なくない。
試合後の観客席でゴミ回収という方法もMLBは逆輸入した
あくまでフェアにあくまで爽やかにプレーする大谷翔平のように
WBCは勝負のみならず、文化の交差点であることも忘れてはならない。
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