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この手紙赤き切手をはるにさへー郵便事情と牧水のときめき

2023-01-24
「この手紙赤き切手をはるにさへこころときめく哀しきゆふべ」
(若山牧水『別離』より)
手紙・葉書を出すことの幸福

スマホ全盛の時代にあって、手紙や葉書を出すことはさらに貴重な思いが増すようになった。即座に相手にメッセージが届くわけでもなく時間差があり、いつ届いたかもわからない。SNSであれば「既読」かどうか?と相手が受け止めたどうかがいつでもわかるのと比べ、使用率が下がるのも無理はないのかもしれない。だがその時間差とか届いたかどうかを想像することが、むしろ豊かな心にさせてくれることも少なくない。今年は年賀状の販売数も大幅に落ち込んだと聞いたが、この物理的な1枚が届く感覚は他に代え難き思いを持つ。さらには郵便の配達事情が、著しく悪化している。週末の配達はなし、ゆえに土日を挟んで宮崎から東京などは下手をすると5日ぐらいは要するのではないか?前述したSNSへの皮肉なのか、民営化したにも関わらず郵政会社の怠慢なのか、使用する判断に困惑することも少なくない。荷物などは民間宅配業者が希望配達時間に忠実なのに比べ指定外での配達も目立つなど、その基礎体力の差も目立つようになった。

さて、冒頭に記したのは牧水の第三歌集『別離』にある歌。自らの「手紙」に「赤き切手」を貼るという行為に「こころときめく」としている。たぶん最愛の恋人への「手紙」ということなのだろう。しかし「ときめく」と言いながら、結句では「哀しきゆふべ」と反転するような思いに着地している。恋人への募る想いとともに、「この手紙」をどのように受け止めてくれるか?という行き場のない恋心が「哀しき」につながるのであろう。それにしても現代にして切手のデザインも豊富であるが、明治時代にあっても「赤い切手」を選ぼうとする牧水の洒落た思いも読み取れる。前述した郵便事情が影響し、毎月の短歌結社への歌原稿の郵送も投函日を早くせよと促されるようになった。この日にSNSを見ていると、「新幹線」のデザイン切手を貼れば「早く着く」との洒落に満ちた投稿もあった。結社への短歌を送る方法が、手書き歌稿に郵送というのも深い思いが重ねられてワクワク感に満ちている。届いたかどうか?は3ヶ月先の結社誌に自らの短歌が掲載されるのを確認するまでわからない。自らの短歌が「読まれる」のにこれほどの時間を要し、「ときめく」時間があるのも粋なものだと思っている。

SNSメッセージの手軽さ
手紙文を物理的に手にする重厚さ
「ときめき」を失わずに他者との交流を楽しみたいものだ。


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