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宮崎大学公開講座「牧水をよむ」第2章「孤独と別離」その4

2023-01-22
「草ふかき富士の裾野をゆく汽車のその食堂の朝の葡萄酒」
「離れたる愛のかへるを待つごときこの寂しさの咒(のろ)ふべきかな」
「春白昼(まひる)ここの港に寄りもせず岬を過ぎて行く船のあり」
(牧水第三歌集『別離』より)

今年度公開講座も最終回となった。前期4回・後期4回と合計8回を、ゲスト講師に伊藤一彦先生をお迎えして(伊藤先生は所用で11月は欠席)開催することができた。今日本で考えられる一番贅沢な「若山牧水の読み」ができる機会であろう。8回の講座で第一歌集『海の聲』第二歌集『独り歌へる』そして今回は第三歌集『別離』までを読むことができた。『別離』は明治43年4月10日刊行で総歌数1004首新作133首、多くは『海の聲』と『独り歌へる』の再録歌が多い。だが第一・第二歌集が宣伝も行き届かず発行部数も少なく、ほとんど歌壇に知られなかった。しかし第三歌集は詩歌専門出版社である東雲堂の発行で、同出版社の詩歌総合雑誌『創作』の編集も牧水に任されていたことで大ベストセラーとなった。早稲田大学周辺の書店でも平積みの山が顕著に減り、どれだけ再版したかわからないほどの売れ行きであったと云う。しかも当時の若い人たちの間で盛んに読まれ、青春恋愛歌人として歌壇での地位を牧水が得た初めての歌集であった。

明治43年というのは、牧水と同年代の歌人たちの歌集出版が相次いだ年である。現在も「短歌ブーム」と言われているが、明治期に出版文化がようやく隆盛となり多くの人が短歌に親しみ出した近現代の始発といっても過言ではない。この日の講座では伊藤先生と僕とで10首ずつ歌を選び、受講者にもそこから各1首ずつを選んでもらいコメントをいただきながらの対話を展開した。僕は特に「葡萄酒」を詠んだ歌を3首、また「白鳥」を詠んだ歌を2首、そして『別離』という歌集名からもわかるように、「哀し」「寂し」が含まれる歌を選んだ。また「この少年にくちづけをする」という歌も選んだが、伊藤先生も再発見だと仰っていた。「葡萄酒」や「汽車の食堂」が当時どのようであったかは、かつてMRTラジオが「都農ワイン」を特集した際に調べた内容があると伊藤先生の弁。「上野精養軒」が営業し牧水の歌通り「葡萄酒」が出されたのだとすると、明治ハイカラな洋食が振る舞われたのであろうか。また伊藤先生が選ばれた歌は、あらためて自然に向き合う牧水の視点が鮮やかで、「秋くさ」「落葉」「栗」などの比喩から「別離」の情を深く読み取ることができた。冒頭に挙げた3首の3番目は、歌集巻末の歌。「ここの港に寄りもせず」という船の描写は、「春白昼」の気怠さと相まって牧水の恋愛の結末を思わせる。されど、恋人・小枝子への未練は簡単には断ち切れないことは、歌の中からも深く読み取れる。諸問題も勃発し歌集が好調なのに反して、牧水は心身ともに疲弊するということを併せて考えることができた。

終了後は伊藤先生と年間を通して受講してくれた方々と
牧水が苦労の末に歌壇で認められるようになった物語り
次年度も開催頻度は調整しつつ伊藤先生とともに講座を継続しようと思っている。


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