「いとしの牧水」ー短歌・書簡朗読&トーク公演
2022-11-14
「樹は妙に草うるはしき青の国日向は夏の香にかをるかな」「或時はひとのものいふ声かとも月の夜ふけの葉ずれ聞え来」
「啼く声のやがてはわれの声かともおもはるる声に筒鳥の啼く」(若山牧水の歌より)
若山牧水との縁は並々ならぬものがあると、あらためて青の国の空を見上げて思う。今回の朗読公演をするにあたり、牧水が延岡中学校からの親友・平賀春郊への生涯264通に及ぶ手紙を読んだ。すると東京の窪町(文京区)に住んでいた牧水が、近所に自らの仕事場を借りていたことが記されている書簡があった。そこは「小石川東京病院の隣」だとあった。なんとその場所は、僕が宮崎に赴任する前に東京で住んでいた場所であった。なんとなく惹かれてその場所を選んでいたが、まさか其処に牧水が住んでいたとは思わなかった。本邦初公開、この日の公演トークでこの奇縁を初めて紹介した。きっと牧水先生は、妻・喜志子との縁を結ぶきっかけとなった敬慕する歌人・太田水穂の邸宅跡近所の産院で生まれた僕を、次第に牧水の仕事場に住まわせ論文を書かせ公募に応募させ宮崎に導いたのかもしれない。研究室の机の正面に掛けてある肖像写真を見上げると、時折鏡のように自らの顔との類似を覚えることもある。若山牧水そして牧水研究第一人者である伊藤一彦との出逢いは、僕にとって必然の出来事であったのだとあらためて噛みしめる一日となった。
「牧水〜!」思わずその純朴さと人情味の厚さに叫び出したい気分にさえなる。「いとしの牧水」今回の公演タイトルは「いとしのエリー」(サザンオールスターズ)にも擬えるようで、聞いている方々にも牧水をさらに「いとしく」思う機会になればと朗読&トークの準備をしてきた。第一部は伊藤一彦先生の牧水の紹介トークと短歌朗読、冒頭に記したのは朗読された短歌の一部である。「ふるさと」である日向を「青の国」と詠み、「葉ずれ」や「筒鳥の声」に自らが同化するような自然との関係性。他にもちろん「牧水と恋」を含み3つのテーマで牧水をよく知らない方々でも楽しめる構成であった。冒頭から「牧水のテーマ」(ピアノ独奏)や朗読の背景には、素晴らしい音楽が流れる。ピアノ和田恵さん・チェロ土田浩さん・フルートと企画プロッデュースに外山友紀子さん、今回はこの素晴らしい生演奏とともに朗読ができるという贅沢な機会を頂戴した。僕の出番は第二部から、「牧水と友情」と題し大学の同級生でともに九州出身の北原白秋・同年齢で雑誌投稿などを通じて新しい短歌をともに目指した石川啄木、さらには旧制延岡中学校時代からの生涯の友・平賀春郊(鈴木財蔵)らについて紹介した。そしていよいよ牧水の書簡朗読、今回は取り組んでみてあらためて牧水の記した文章は身体的な呼吸感に根ざしていることを実感できた。また文字情報がなくとも、明治大正の文章でありながら耳で聞いてよくわかる。漢語より大和言葉を重視した文体の特徴を自ら朗読することで伝えることができたように思う。そして会場となった「サルマンジャー」というホールの音の響きの素晴らしさ、自ら朗読をしていて、これほどに爽快な場所はそう多くはない。誠にありがたき出逢いを重ね、この舞台に立たせていただいている自分の存在に酔った午後であった。
結びには伊藤一彦先生の叙勲のお祝い
やはりライブでこそ伝わるものがある
好評につき再演となりますよう、足を運んでいただいた全ての方々に感謝。
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