宮崎大学公開講座「牧水をよむ」第1章その4「牧水の青春」
2022-08-28
「真昼日のひかり青きに燃えさかる炎か哀しわが若さ燃ゆ」「わが若き双のひとみは八百潮のみどり直吸ひ尚ほ飽かず燃ゆ」
「春哀し君に棄てられはるばると行かばや海のあなたの国へ」(牧水『海の聲』より)
宮崎大学公開講座「牧水をよむ」前期4回の最終回。牧水の第一歌集『海の聲』を4つのテーマに分け、あらためて読み直してきた。出版当時は引き受けた版元が雲隠れして、借金の末にやっと世に出した歌集。宣伝などもままならず、歌壇で評判になることもなかった。だが今にしてこの歌集を読み直すと、牧水の「名歌」といわれるものが多数含まれている。僕たちが「牧水」を考えるとき「旅・酒・恋」の3つは必須の題材だが、その要素が既に『海の聲』には多く見られる。しかもそれぞれのテーマが「海」「空」「日(陽)」など「自然」に寄せた詠み方をしている。冒頭に挙げた3首は今回の資料の「10首」に僕が選んだ歌であるが、まさに「牧水の青春」が素材にも使用語彙にも感じられる歌である。既に園田小枝子への激しい恋慕を燃やしつつ、自らの「かなしみ」に向き合うことで短歌表現を紡ぎ出している印象を受ける。「若さ燃ゆ」とはあらためていいものだと、読み手として自らの若い頃に思いを馳せることのできる歌たちだ。
講座の冒頭には、先週開催された「牧水短歌甲子園」について審査委員長の伊藤先生からいくつかの歌の紹介があった。「モータル」「リリカル」といった語を駆使しながら、現代の若者らしい世界観が表現された歌へ着目されたのはこの大会の新しい風。どこか「読み」の中に「謎」を残すような、明らかにわかりやすい歌との違いに「若さ」が見えるということだろうか。また「戦争」に対して等身大の高校生がどう向き合うか、というテーマの歌の紹介も受講者ともども多様な世代の者として共感できるものがあった。短歌甲子園の歌への批評は、牧水もその「かなしみ」を「自分の外側に独立したものとしてあった」という若き牧水への伊藤先生の見方に連なる。「波」が立ちやすく「霧」の中に置かれたような、若き日の哀しみと苦悩。「安らに君が胸に死(は)てむ日」という下句の歌などには、牧水がその恋に命懸けであったことが知られる。恋に限らず牧水には「対象を好きになる力が高かった」という見解が、伊藤先生から述べられた。恋人も旅も酒も母も家族も、みんな徹底して好きだった。家で酒を飲んでも家族らは決して嫌な思いをしなかった、むしろ子どもらにも愛されたという牧水。現代のクレームや批判が多い世の中で、あらためて「好きになる力」を僕たちは牧水から学びたい。
第一歌集『海の聲』をよむ4回が完結
10月からは第2歌集『独り歌へる』第3歌集『別離』をよむ4回シリーズ
まだまだ牧水の再発見はこれからだ。
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