電報でも自己表現でもないー第12回牧水短歌甲子園準決・決勝
2022-08-22
準決勝第1試合:気仙沼高校×宮崎商業高校 準決勝第2試合:筑波大学附属高校×宮崎西高校
決勝:気仙沼高校×宮崎西高校(優勝:宮崎西高校)
「半年分の短歌の勉強ができた」審査委員長・伊藤一彦先生の言葉が実感として響いた。高校生が生身で短歌へ向き合う言葉、審査員が「歌人」として繊細に批評する言葉、さらにこの場から巣立った卒業生たちの逞しい未来ある言葉、これらが共鳴し合い誠に豊かな時間が牧水の故郷・日向市に巻き起こった。夕方のMRT宮崎放送のニュースには、僕自身も観戦し拍手している姿が映し出された。ここでは決勝後の「講評」の時間に審査委員の方々から語られた内容を覚書としておきたい。フィールドアナウンサーを務めた卒業生らから、「多様性の歌や短歌の型に嵌らない歌」が見られたという指摘があり、「新しい詩」が現れ始めた大会であることが示された。審査員の俵万智さんも各対戦の講評の随所で、自らを「型抜きおばさん」と称し同様の指摘をされていた。笹公人さんは俵さんを「も警察」と呼び、「歌の中にある『も』を取り締まり、動詞は3個まで」という指摘がYouTubeで浸透し、今大会で指摘されることが少なくなったと3年ぶりの変化を語った。
審査委員長の伊藤一彦先生からは、ウクライナ侵攻の歌もあったが意外にもコロナ禍の歌は少なく高校生の中で「日常化」したのではとの指摘もあった。また「歌は体験でも事実でもない」とフィクションの大切さを説き、「本当の気持ちを伝えるための嘘」という助言が印象に残った。さらに大口玲子さんからは、「詩歌は自己表現ではない」という谷川俊太郎さんの言葉を引用し、「世界を見つめその複雑さを表現するものが短歌」とし、「短歌を作り続けることで人生が変わる」との指摘があった。各対戦の講評の随所でも特に「戦争」を素材にした歌のあり方などに対して「映像などで間接的に知った光景」を描くことの、何とも言葉にならない不条理感への批評があった。実感のあるものが「短歌」だと特に近現代短歌は目指してきたが、Webなどによる情報過多な時代にあって、「実感」の質が揺らいでいるとでも言おうか?前述した「フィクション」への志向とどのように折り合いをつけて私たちは表現したらよいのか?短歌史における根本的な問いが発せられ、若い高校生の大会ゆえの未来志向な高度な議論が巻き起こったような印象だった。俵万智さんからの「短歌は論文でも電報でもない」という指摘、「三十一文字」という表現の宇宙についての核心的な議論を、牧水先生は天からどのように聞いていたのであろうか。
「LGBTQ+」への意識
文芸部ではない人たちの参加者の拡がり
「短歌県みやざき」の大変に豊かな2日間であった。
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