第26回若山牧水賞授賞式ー黒瀬珂瀾氏「ひかりの針がうたふ」
2022-07-19
2月より延期により牧水『海の聲』出版の日に開催伊藤一彦先生講演「いざ行かむ、いざ詠まむー若山牧水賞と牧水の今」
「かなしみは水のかたちか潮満つる秋のみぎはに吾児を立たせて」(『光の針がうたふ』より)
通例2月開催で延期となりつつも授賞式・祝賀会とできたのは2年ぶり。知事の弁にもあったが、感染対策を十分にとりつつ行うべきことは行うという生活様式を取り戻した。標題の黒瀬氏の歌集が今年の受賞作品である。富山市の寺の住職でもあり、読売歌壇選者でもある黒瀬氏。歌集の歌によく登場する奥様と娘さんを伴い、僧籍であることを思わせる衣装で授賞式に臨まれた。歌集には福岡県在住の歌も多く、九州にゆかりのある歌集でもある。選考委員の講評では佐佐木幸綱先生から「若い頃はシャープな歌が多かった」ことが紹介され、受賞歌集にはそれが影を潜めたことにやや選考で躊躇もしたというエピソードも披瀝された。だが高野公彦氏・栗木京子氏の講評も併せ、「変わることこそが変わらないこと」だということの大切さを実感することができた。眼の前にあることに真摯に向き合い、その実感をそのままに手触り感あることばに託して行く。歌壇で一定の評価を得た歌集への講評には、毎度のことだが学びが多い。さらに今回は伊藤一彦先生が、これまでの牧水賞講演についても25回を振り返る内容を披露した。大岡信・岡野弘彦・馬場あき子・佐佐木幸綱らの錚錚たる顔ぶれの講演内容からは、牧水評価への再発見がたくさん詰まっていることが確認できた。
祝賀会では伊藤一彦先生のご指名もあって、お祝いの言葉を壇上で述べることになった。急なご指名であったが、『ひかりの針がうたふ』を読んだ際に冒頭に記した一首が気になり暗唱していたので、紹介しつつのスピーチをした。牧水の歌にもよく詠まれる「かなしみ」を、当該歌は「水のかたちか」と詠んでいる。これまた牧水がその名とした「水」に「かたち」を見出そうとするあたりに通底した感性を見出すこともできる。「潮満つる秋のみぎは」もまた、牧水が憧れの対象とした「海」を捉えており、黒瀬さんの歌にも多く「海ー命」のつながりを読むことができる。その「みぎは」という海との接点に、身近な命の存在である「吾児を立たせて」と言いさしの結句。既に宮崎日日新聞に連載された黒瀬さんの「牧水の現代性」でも引用し指摘された、「旅人のからだはいつか海となり五月の雨が降るよ港に」に読める現代性と自然への敬虔な態度にも通じるわけである。他に学生らとともに「短歌県づくり」に取り組んでいることにも触れてスピーチを結び、受賞祝賀会にいささかでも花を添えることができた。
毎年の「短歌県みやざき」恒例行事
選考委員の先生方と角川短歌編集長も交えて充実した時間
短歌に向き合う者として誠に贅沢な時を共有できた。
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