推敲論ー第371回心の花宮崎歌会
2022-07-03
短歌は長い時間を詠うのが苦手結句にある表現は本当に作者の言いたいことなのか?
「てにをは」と「語順」が推敲の要点
第371回心の花宮崎歌会、恒例の第1土曜に出詠44首、選者・伊藤一彦さん・長嶺元久さん、互選票6票1首・4票2首・3票2首・2票10首・1票7首・可能性無限大(0票)22首。5首選は選者2名に加えて、残念ながら欠席の俵万智さん・大口玲子さんからもいただいた。午後4時半に開始で約2時間半、かなりコロナ以前と同様の時間で実施することができるようになった。高得票の歌から批評することでじっくり意見が交流し、可能性無限大の歌は選者2名から評が為された。高得票から時間を費やすのは、やはり表現に長け多様な解釈の可能性を含むからである。他者にわからず表現力が乏しい歌に、時間を無為に割かないためでもあると云う。だが選者4名の5首選に可能性無限大の歌が入選することもある。この段差が歌会全体の「歌の読みの次元」ということになろうか。「わかり過ぎる」歌にただただ共感して選ぶのではなく、解釈に迷いながら興味の深い歌を選ぶことが求められるであろう。自分の「選歌」の位置と選者のそれとの差と距離を把握しながら、「なぜ?」という疑問に表現を根拠にしつつ具体的にことばにできることが肝要であるように思われる。もちろん選者の間で、その評に違いがあるのも自明である。ここが短歌の面白さである。
この日は冒頭に伊藤一彦さんが「短歌研究賞受賞」という速報もあり、お祝いのことばが贈られた。昨年(2021年)『角川短歌11月号』「さなきだに」20首が対象作品だ。題名の「さなきだに」は「そうでなくてさえ。ただでさえ。さらぬだに。」の意味。コロナの日常や戦火を予見するような歌に加え、AI(人工知能)やハラスメントなどの現代的素材、そして自他の生命に思いを致す歌が落ち着いた文体で語られる作品だ。ご本人は「意外な受賞」と謙遜されているが、あらためてその取材や文語文体の表現を深く味わい直すべきだろう。宮崎に居りながら社会のどんな側面に目を向けるべきか、なども考えさせられる。さてその伊藤一彦さんから今回の歌会で特に強調されたのが「推敲論」である。ある出詠歌を対象に、具体的に推敲すべき要点が語られ大変に参考になった。①結句の表現は本当に言いたいことなのか吟味する②短歌は長時間を詠うのが苦手。長い時間の中の1点を切り取る焦点化が為されているか③「てにをは」と「語順」が推敲の要点。といった点が挙げられた。そして推敲していくと「日々考えが変わるのが面白い」とも述べられた。〆切の最低1週間前に歌はできていて、推敲すべき時間を確保する必要があると説かれた。多くの会員にとって、大いに参考になり説得力のある「推敲論」であった。
「絵に描ける」かどうか?
「あなた」や「主体」に対して多様な解釈も
司会を務めた歌会は未だ講義形式の座席で意見が出づらい、車座の復活が待たれる。
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