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先生はつくるー『日之影大吹哀歌』(第10回岡田心平賞受賞作品劇団ゼロQ公演)

2022-06-27
「私たち女郎はさ、ここで死んで山に埋められて、
 そこに石を置かれて終わりさ、
 名前もなけりゃ、墓なんてありやしない」(『日之影大吹哀歌』より)

山に登り自らの足で歩き発見したことへの驚き。そんな激しい情動をそのままにすることなく、「表現」することは人としても大切なことだろう。宮崎県日之影町見立地区五葉岳入り口に「大吹(おおぶき)鉱山跡」があると云う。そこは天正10年(1582年)に鉱脈が発見され寛永8年(1631年)に操業が始まり閉山される明治の初めまでは1000人規模の人々が鉱山労働者やその家族として住み、行商人が行き交い遊郭までもあった賑わいを見せていたと云う。こんな宮崎県内の放置すれば埋もれてしまいそうな歴史に焦点を当て、一人の「女郎」と新たに遊郭に売られてきた14歳の女性の生き様を描いた戯曲が『日之影大吹哀歌』である。多くの女郎たちが、家族の食い扶持を稼ぐために女郎屋に売られ、年季が明ける直前になると後悔と未来の展望に失望し自ら命を断つ者も多かったのだと云う。「女郎屋」の旦那と番頭のえげつない策略に騙され、純粋な恋心を利用され踏み躙られる女郎「お清」、その下で年季奉公を始めたばかりの「お栄」は耐えきれず「女郎屋」から、ある者の助けを借りて逃げ出すという哀しき物語であった。

この作品が本年「第10回岡田心平賞」を受賞した。綾町を拠点に宮崎の演劇に功績があり38歳で急逝された岡田心平さんを顕彰し、宮崎県内で書かれた戯曲作品に与えられる賞である。演劇をすること芝居で訴えることの尊さを岡田心平さんの意志を受け継ぎ、表彰される作品のリーディング劇を観るのが毎年楽しみだ。昨年も懇意にする県内高校の国語教師である方が受賞し、奇しくも今年もやはり以前から「高校国語研究会」などで交流のあった高校国語教師の方が受賞した。新学習指導要領では学校種を問わず、学習者に「創作」を通して学ぶ「学習活動」を重視した内容になっている。短歌・俳句・詩・物語・小説・戯曲(脚本)等々、制作する過程を通じて原作やモチーフとなる教材の読みを深め、また想像力や表現力を育むことを意図している。だが大きな問題は、学習者である生徒・児童には「創作」をやらせるのだが、指導者である教員が「創作」の経験がないことだ。何も本日の話題のように受賞を果たす作品を、全ての教師に書けと言っているのではない。少なくとも学習者とともに作品を制作してみるなど、その「創作」にはどれほどの意義があるかを自ら経験して理解しておく必要があるのではないだろうか。現場では往々にして「音読活動」一つをとってみても、CD音源使用などで教師自らが「逃げる」ような姿勢が残念ながら目立つ。こうした意味で、宮崎県立高校の「国語教師」が2年連続で「岡田心平賞」に輝いたのは、県の「国語教育」にとっても誠に大きな成果であると思う。

高校演劇部の部員たちとともに創った作品とのこと
宮崎の哀しい歴史に高校生演劇部員が向き合う意義も
またあらたにリーディング劇に出演したい衝動を覚えた公演であった。


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