「ふるさとの」生命と自然ー多胡吉郎氏トークセッション
2022-04-18
多胡吉郎著『生命の谺 川端康成と「特攻」』(現代書館)今までの研究であまり触れられなかった川端の「生と死」を描くことへの体験
「牧水と康成」「生命とことばの響き」「生命と聲」トーク覚書
さきほどからみなさま、何やら考えていますね。牧水の歌に「かんがへて飲みはじめたる一合の二号の酒の夏の夕暮れ」というのがあります。まだ夏というには早いですが、陽が伸びてくるといつ酒を飲み始めたらよいか?と「考えて」しまうことはありませんか?先程来、多胡先生が話されるとみなさんグラスの手は止まり、静かにお話を聞いている。どうぞ!私の話には「一杯の二杯の酒」をお供にお聞きください。日本の学校では、人の話を聞くときにものを飲んだり話したりしてはいけないと教わりますが、みなさんの様子はその教育が見事に身体化しているのがわかります。昨日は川端没後50年、今年の9月17日で牧水没後94年となります。こうした機に多胡先生とご縁をいただけたのは、大変に貴重なことでした。川端と宮崎を語るなら、朝の連続テレビ小説となった『たまゆら』が欠かせません。現在も川端が滞在した部屋が保管されている宮崎観光ホテルに、2・3泊のつもりが15日間にわたる長期滞在をし県内をあちこち巡った。「たまゆら」という語は「たまゆらに昨日のくれにみし物をけふの明日にこふべきものか」(人麿集)が初出だと『日本国語大辞典』に示されますが、「時間の経過のごくわずかなさまをいう。」という意味です。その『たまゆら』で登場人物が宮崎市内から眺める景色として「ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋のかすみのたなびきてをり」があります。宮崎の平野部から「山が見える」という点を強調する書き方になっている。そこで川端によって牧水が引用されていることには、大きな意味があると思っています。
「牧水」という雅号は、「母『マキ(牧)』+故郷の坪谷川の『水』」で、雅号が定まるまでも「雨山」とか「白雨」とか「天からの水」を意識しています。「水は山の血管」であり「自然が活きて山に野に魂が動いて来る。」と牧水は書いている。その延長上に平野部の川があり海がある。「山を見よ山に日は照る海を見よ海に日は照るいざ唇を君」は、恋人に「接吻」を迫る歌ですが、「山と海」の自然と同化しつつ私たちは愛し合おうと言っている。宮崎の地形として平野部から山を仰ぎ足元に川は流れ海に注ぐ、という図式に牧水も川端も共通した自然に一体化する「命」を読み取ったわけです。川端の初期作品に『抒情歌』(昭和7年)がありますが、人間の魂というものは、自然そのものの中に存在するようなことが読み取れます。川端も書くことに命を賭けましたが、牧水もまた歌を詠むこととその歌を揮毫して歩く旅に命を賭けています。旅先で様々な人たちと交流するために酒を拒絶することはありませんでした。朝鮮半島への揮毫頒布旅行も強行して、結局は身体の患いを深めてしまう。死の間際にも主治医の了解のもと、妻は酒を与えている。自然との一体化を考える牧水には、死は怖くなかった。「足音を忍ばせていけば台所にわが酒の壜は立ちて待ちをる」と晩年に詠んでいる。まさに「酒とも一体化」していた訳です。旅に活き尽くし、歌を詠い尽くし、酒も飲み尽くす。牧水はそんな43年間の人生を全うした。川端が「生と死」をいつも抱えて作品を書き、宮崎に魅せられた要因は、牧水のこんな面を考えると、繋がってくるのだと思っています。
「草青き宮崎の綾に語りゐし多胡氏トークの後の葡萄酒」(自詠)
薗田潤子さんの『たまゆら』朗読もあって実に声が響き合う会に
文学を柱にした文化のある宮崎、もっと川端の『たまゆら』を大事にしていくべきだろう。
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