牧水の「牧」への思い
2022-02-06
牧水の母「マキ」=「牧」延岡藩士族出身の毅然たる人
13歳以降はなかなかともに暮らせなかった思い
若山牧水、本名・若山繁、初期の頃にいくつかの短歌名がある中から早々に「牧水」に定めたのは理由がある。牧水は現在の日向市東郷町坪谷の山間の渓谷の生まれだが、12歳で延岡高等小学校に入学している。15歳で創立されたばかりの県立延岡中学校(現・延岡高等学校)第一期生として入学し寄宿舎で生活をしている。幼少の頃から厳しくも愛情深く育てられた母・マキとの思い出は、大人になって書かれた牧水の随想作品によって僕たちは知ることができる。延岡を離れ早稲田大学に進学し短歌の道を志そうとした際には、友人の北原白秋などが当時「水」のつくペンネームであったことから「早稲田の三水」と呼ばれ、既に「牧水」を名乗っていることがわかる。母のいる故郷・坪谷から遥か遠く東京の地で志を立てようと勉学に奮闘する際に、「母=マキ」の名を漢字に変換し自らの短歌名(ペンネーム)として名乗るからには、母への並々ならぬ思いがあったはずである。こうして「繁」が「牧水」と名乗ったことで、僕たち後の世の愛好者も「母=マキ」の存在には常に注目し、その短歌の中にも「母なるもの」が読めることを重視することになっているのは、「牧水=繁」の意図通りであったということだろうか。
人は誰しも自分自身の存在理由は、「母」にあると言ってもよいだろう。日本古典の最高傑作・世界最古の長編小説と言われる『源氏物語』においても、子が母を慕う思いが全編にわたって物語の基底に流れている。かつて1990年代にサザンオールスターズ「涙のキッス」を主題歌とするTVドラマ「ずっとあなたが好きだった」では、俳優の佐野史郎さんが母親役の野際陽子さんへ、当時は「変態」とも呼ばれるほどの偏愛行動の数々が演じられ大きな社会的話題となった。「冬彦さん(佐野史郎さんの役名)」の所謂「マザコン性癖」は、妻(賀来千賀子さん役)をないがしろにして追い込み、社会風潮としては「マザコン夫であってはならない」というメッセージ性が前面に出ていた印象である。佐野史郎さんの好演による変態性ある行動そのものは、ドラマ演出としての虚構性を認めつつもなかなか現実で受け入れられるものではない。だが、あまり正面から語られることのない誰しもが抱く母への愛慕という避けがたい感情は、人間の永遠のテーマであることを忘れてはならない。牧水は生涯、「母=マキ」の名を冠して生き抜いたのである。
コロナ社会にあってともに暮らせる喜び
静岡の沼津に家を建ててそこに母を呼びたかった牧水
しかし、母・マキは故郷の坪谷を離れることはなかった。
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