己を愛し信じ理解するために
2022-01-31
「人間はそもそも自分を愛し、自分を信じ、自分自身を理解していなければ他者を愛することはできません。」
(ドイツ元首相・メルケル講演録『わたしの信仰』より)
既にコロナ禍の闇のトンネルに入って2年になる。現在の第6波のあまりにも急速な感染拡大の波を、僕たちはどのように潜り抜けていくことになるのだろう。そのコロナ禍において、「言葉は灯になる」として「世界のリーダー」の言葉に注目している若松英輔『弱さのちから』(亜紀書房2020)は、詩人・批評家としてまさに多くの「言葉」や「視点」を提供してくれる。その中に小欄冒頭に記した、元ドイツ首相メルケルの演説への印象が語られている。コロナ禍の入口にであった2020年3月の演説で「不安の共有」を述べ、決して「頑張れ」という言葉を口にしなかったことで聞いた人々に安堵が広がったことを若松は指摘している。国のリーダーとして「強がる」こともなく「弱さ」を受け入れたことで、人々と「つながり」ができたのだと云うのだ。剛強なだけの柱が揺れに弱く折れてしまうように、自らも不安であるという「弱さ」のたわみがあってこそ柱は激震に耐える訳だ。どこぞの国には、剛強に見せかけた柱のようなリーダーのみが場当たり的な対応をくり返して2年後の今に至る。「検査が足りない」「ワクチンが進まない」という再放送のような状況は、「弱さ」を認めてこなかった証拠ではないだろうか。
コロナ禍のトンネルの闇だけが原因とは言わないが、ここ最近この国の社会で起きる凶行はまさに「自己の弱さ」を認めない心理的な作用に起因しているように思う。「自分は死にたいがその勇気もなく他者を殺める」、まさに「自分も愛せない」上に「他者を憎悪する」という最悪な精神的渦中から引き起こされる事件の数々ではないだろうか。事件は個々の機微を精査すべきではあるが、どこかでこの国の社会が抱えた「自己愛の欠如」とともに「強行な他者への文句(クレーム)」が横行して来たという意味で原因を同根にするように思えてしまう。それはリーダーが「弱さ」を自覚し認めるどころか、強引に政策を進め良識を踏み外し、露見しそうになると改竄・隠蔽し自らの保身だけは確保しつつ、草葉の陰かと思える中に至ってもなお影響力を及ぼすような危うい柱の剛強さが露わになっていることに由来しないか。国家とは避けることができず、リーダーの舵取りや姿勢に少なからず影響を受けているはずだ。新型コロナウイルスが作った人類全てのトンネルは、各国のリーダーのあり方も露わに可視化する作用をもたらした。寄せては返す第○波が来たとしても動じないように見える、台湾やニュージーランドのリーダーたちは、やはり自らの「弱さ」を知っているようにコメントなどから感じられる。政治に限らず周囲の者たちの「弱さ」を認めること、そのためにはまず自らの「弱さ」を認めるべきであるのに。
教育においては基本原則である
「一丸となって全力で」よりも「己の弱さをまず知ろう」
自分を愛せず、自分が信じられず、自分を理解していない、ゆえに諍いが絶えないのだ。
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