牧水を再発見する(3)
2022-01-26
「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」全ての高等学校教科書に掲載される定番教材としての短歌
「・・・年生には難しい」という議論や如何に?
昨日小欄の最後に掲載した若山牧水の歌は、「世界一有名な短歌」と短歌界では認識されている。歌人の方々にアンケートを取ったとしても、多くの人が「愛誦歌」として挙げることが多い。また現行の高等学校教科書においては、全ての出版社の教科書に掲載されている。「全ての・・・」というのは限られた出版社しか教科書を発行していない義務教育とは違い、高等学校教科書は多くの出版社が多種類の教科書を発行している。小説教材・芥川龍之介『羅生門』とともに、牧水の短歌は高等学校では必ず学習するはずの教材なのだ。だが大学へ入学してくる学生の記述によれば、決して「全ての学生が学んだ経験があるわけではない」ことがわかる。教科書教材であっても教師の選択によって、特に詩歌は疎かにされがちな教材である。その大きな要因は「入試には出ない」という誤った理由によるものと推察するが、同時にこの歌の魅力を教師が理解していないことも大きいのではないかと思う。
昨日は本年度ゼミの最終日、感染拡大によって全ての講義において「原則遠隔実施」という御触れが全学から発出した。それに従いzoomによる実施であったが、3年生の発表による熱い議論を展開することができた。その中で宮沢賢治『注文の多い料理店』が、ある出版社の小学校5年生教科書に掲載されているが、発達段階として難しいのではないか?という議論があった。だが「難しい」というのは、どういう要因からなのだろうか。同様に考えれば『羅生門』は高校1年生には難しいのかもしれず、漱石『こころ』は高2には手強いということになるだろう。果たして完全な理解が得られることが、こうした定番教材を扱う目標なのだろうか?当該年齢で分からなくとも、「いつか分かる時が来る」のがこうした定番教材の価値ではないか。同様の意味で学校ではほとんど叙景歌としてしか授業されない冒頭の「白鳥は」の歌も背景に恋の苦悩があることには、「大人になって気づく」のではないだろうか。「染まずただよふ」という「空と海の間(あはひ)」に「ただよふ」というどっち付かずとも言える普遍性など、僕もかなり仕事をして社会で苦い経験もしてようやく少し分かる境地であった。よって「入試に出ない」ものの、「人生の窮地」においては大きな利益をもたらす価値と魅力に満ちた教材なのだ。まずは宮崎県だけであっても、この名歌の意味を全ての高校生が学ぶものとできたらと強く思うのである。
人生に山あり谷あり苦悩あり
ゆえに読書をもって多くの人生を知っておくことの大切さ
高等学校は受験予備校にあらず、人生の苦悩を乗り越えるための力の種を蒔く学校なのだ。
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