伊藤一彦×中村佳文「クリスマスをうたふ 宮崎に生きる」その2
2021-12-26
「致死量の日向の空の青にまだ殺されずわれ生きてゐるなり」(伊藤一彦『待ち時間』より)
死んでしまいそうに愛してる
1週間の時を経て、標記の出版記念トーク第2弾が開催された。場所を宮崎市中心部、駅の正面からデパート街に伸びる高千穂通りにあるカリーノ内TSUTAYAさんの特設会場である。クリスマス当日という条件ながら、定員20名以上の方々にお出でいただき盛況なトークとなった。対象当該本を著して初めてのクリスマス、24日25日をあらためて現実に過ごしてみての実感は「感謝の日」であるということだ。出版の契機を作ってくれた方々、出版そのものに関係してくれた方々、出版後に温かく厳しく評価してくれる方々、そしてこうした機会に来場いただく方々、感謝の思いを込めてトークを開始した。「分裂家族」「ゆがめる国」やがて「クリぼっち」、2000年代となってからのこの国の社会・教育・家族などの問題に日々僕たちは直面している。むしろ高度経済成長期は、「家族で過ごす」ことがクリスマスに関しては大切にされていた面もある。残業で遅くなる一家の大黒柱を「待つ」ことのできた時代。「待つこと」を肯定的に捉えていた俵万智『サラダ記念日』の大きなモチーフの一つであったとする佐佐木幸綱の評も紹介した。(埼玉所沢角川武蔵野ミュージアムで開催の『俵万智展』に展示がある)伊藤一彦さんからは「俵待つ」と呼んでもいいのでは、というユーモアも含めて前半のトークが展開した。
後半は伊藤一彦さんの『自選歌集ー宮崎に生きる』を中心とするトークへ。1週間前のトーク後に学生が好きだと言った短歌が、紹介されて行った。そのうちの一首が冒頭に記したもの、この「日向(宮崎)」の空の青さをを「致死量の」と形容した迫力のある歌だ。僕自身も幾度となく宮崎の空の青さには驚かされているが、「致死量」ゆえに「殺されずわれ生きてゐるなり」という語りには圧倒される。物事の素晴らしさを言う際に肯定的に述べるばかりでは、迫力や真意は伝わらないのであろう。「LOVE(愛)」とは「あなたのために私は死ねます」と訳したのは明治時代の二葉亭四迷であったが、そんな文学的な奥行きを感じる歌である。その後、40年ぶりの卒業生も会場にいらしていたことなどから、伊藤さんが高校教員として長年取り組んできたことの話題へ。カウンセラーとして多くの高校生の悩みを聞いてきた経験の厚みを知ることができた。あくまで学校では「生徒に教わる」ことが全てだと伊藤さん、僕自身の教員経験でも同感である。ゆえに「聴く」ことが大切、この「聴」の字には「心」が付いており、「受け入れる」「治める」「待つ」という意味もある。何より大切なのは人の声を「心で聴く」ことである。短歌は「人の心が種」なのだとすれば、その奥行に響く心を「聴く」ことが「よむ」ということになるのだろう。『伊藤一彦が聞く』(青磁社)という書籍もあり、牧水賞歌人の心の奥に伊藤さんが分け入った渾身の書でもある。
トークショーを終えた街はクリスマス
妻の実家へ向かい義母と馴染みのお店で「カレー鍋」とともに店主と楽しいトーク
あらゆることへ感謝の思いを込めたクリスマスとなった。
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