伊藤一彦×中村佳文「クリスマスをうたふ 宮崎に生きる」その1
2021-12-19
「風土とは殉ふものにあらざりき峠より瞰る海はしづけき」(伊藤一彦『青の風土記』より)
「待つこと」と「みやざき」と・・・
企画を考案しTSUTAYA書店の担当者に提案してからというもの、この日を「待つ」までは何にも代えがたい時間であった。「待望」という言葉があるように、「待つ」ことには「期待・希い・祈り」が込められていると鷲田清一がその著書で述べている。出版のみならず記念イベントがあるからこそ、「待望」はさらに大きくなり新刊の深い喜びを味わうことができる。トークセッションで伊藤一彦さんと話し始めて、こんな実感が深く心に湧き上がった。「早く・速く」に偏った社会的価値観、即座に「答え」を求められる社会。それゆえかと思うような不可解で悲しい出来事が、断続的に日本社会に暗い影を落としている。「スピード感」ばかりを重視すれば、見捨てられ見過ごされる人々に声が届かなくなる。短歌を「よむ」ことこそ、「待つ」姿勢が大切だともあらためて思う。作ろうと思って、そう簡単に上手くできる訳はない。それで「ダメだ」とやらないと短歌は「よめ」ない。伊藤さん曰く「いい歌ができたと思っても次の日に見ると全くダメな歌に見える。推敲を進めてこそ自分がいかなるものかが見えてくる。」ということだろう。
自著のトーク以上に、伊藤さんの自選歌集に関するトークには対話しつつ引き込まれた。まさに「宮崎に生きる」をテーマとする歌に関する話題へと僕から進行した。大学学部を卒業して「宮崎に帰りたかった」という志は、何であったのか?その自問自答から大学で学んだ深い哲学的思索をくり返した結果、冒頭に記したような思いの境地に至るのだと知った。生まれ故郷の「風土には殉ふものにあらざりき」という強い断言に、伊藤さんの短歌の太い骨格が見える気がする。下句の「峠より瞰る海」とは、堀切峠からの海だと明かされた。僕も何度となく見ている光景だが、「瞰る」という姿勢で捉えるには至っていなかった。東京から移住してきた僕にとっては、あくまで「観光者的視線」でしか「見る」ことができていなかったのではないかと省みる。「風土」に迎合し埋没し妥協せぬよう「綺麗だね」で済まさず、高い峠から見下ろし自らの故郷たる「風土」を批判的に捉え続ける「瞰る」なのである。思索の深さといえば、伊藤さんは桑田佳祐『ポップス歌手の耐えられない軽さ』(文藝春秋)を読んでいると云う。深さとともに幅広さを兼ね備えてこそ、短歌によむ世界が広がるのであろう。まずは第1弾が無事に終了したが、来場していただいた「心の花宮崎歌会」のみなさま、「宮崎大学短歌会」及び僕の講義を受講する学生さんらに心から感謝を申し上げたい。年代層の幅広いトークショーになったのは、誠にありがたいことだった。
次週12月25日(土)宮崎市TSUTAYA高千穂通店(カリーノ)2階特設会場
今回の「焼き直し」ではないトークをしようと伊藤さんと相談
やはりライブトークで気づくものは計り知れない。
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