「一日一生」引きずらず前のめりにならず
2021-12-13
「一日一生言ひかへるなら一日一死こよひよく死なむ温き布団に」(伊藤一彦歌集『待ち時間』より)
休み寝ることの意味
新刊著書『日本の恋歌とクリスマスー短歌とJ-pop』(新典社)にも引用させていただいたのが、伊藤一彦歌集『待ち時間』の上記の歌である。クリスマスを横軸に「待つこと」を縦軸に考えた趣旨に欠かせない歌集であり短歌である。人にとって時間とは何か?根源的な「生きる」を考えるに「待つこと」という視点・姿勢は重要だ。人はどのようにしたって「今」しか生きられない。過去は変えようがなく、未来はいつも不確定である。「今」が「過去」になり、「今」が「未来」となることもいつしか自覚しないで流れてしまうのが「時間」というものだ。「一生」とは言葉で言えても、それを自ら意識しては生きられない。過去を引きずり未来に前のめりになるよりも、「今」をどれだけ大切に生きるかが重要である。と考えれば伊藤の歌のように「一日一生」という思いが大切になる。それを言い換えると「一日一死」であり、ゆえに「よく死なむ」(うまく死のう)「温き布団に」と結句の穏やかな着地が見事な短歌である。
ある親友がTwitterへの投稿で、次のような趣旨を呟いていた。60歳にもなると一年一年が転機でもあり変わらないといけない。1年は60分の1ではなく、80まで生きるとするとその20分の1にあたり重要度は大きい、ということである。前項の内容に関連させるならば、「1年」が重要だとすれば「365分の1」である「一日」の積み重ねが重要で「転機」でもある。変わるには「一日一死」の覚悟と潔さも大切ということになるだろう。「寝る」という行為そのものが「転機」ともなり新しい朝がやってくる。そしてまた「明日」という明るい陽光に照らされて「今」を生きるのである。「一日一生」とはどこか「旅」にも似ている。「今日」しか見ることができない光景を「今」捕まえに行く。短歌を作ろうとしていると、常に心が起動しており「今」を逃さずに言葉で掬い取ることができる。伊藤の短歌に深く人生を教えられつつ、「けふもまた」やってきた「今」を生きるために「昨日」を書き留めている。
「温き布団に」が恋しい季節
「今」しか生きられないゆえに言葉を紡ぎ出す
そしてやはり牧水の「あくがれ」に通ずる境地なのである。
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