「心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会」20周年ステージイベント
2021-12-05
高齢者万葉集の世界「20周年を振り返って」司会:伊藤一彦・スピーカー:香川ヒサ・大口玲子・中村佳文
高齢者が短歌を作る意義とは・・・
高齢者が集う大会とあって感染状況が心配されたが、標題のステージイベントが無事に開催された。メディキット県民文化センター演劇ホールのステージには、2017年の当該大会でも登壇させていただき、毎年のように観覧には足を運んでいた。第1部は表彰式と受賞歌についてのトーク「おいて歌おう そして元気に」、歌人の香川ヒサさん、臨床心理士の海老原愛さん、そして河野俊嗣宮崎県知事らによる歌への和やかな批評が展開した。香川さんの奥行きある解釈、海老原さんの仕事の経験にも根ざした温かく高齢者に寄り添う読み、そして県知事として、いや一人の人間として県民(受賞歌には県外の方々の作品もあるのだが)である高齢者の心を感じ、そして宮崎の良さを交えた河野知事の批評の交流は聴き応えがあった。平安時代に編集された勅撰和歌集が制作された意図として、為政者が「和歌」によって季節の巡行や人々の恋心を知るというものがあった。「和歌」は「人の心が種」となって「よろづの言の葉」になっているという考え方で、為政者こそが「和歌」に心を寄せる必要がある。全国都道府県の知事で、河野知事ほど「短歌」に表現された高齢者や介護者の心を読み取ろうとする知事が他にいるだろうか。「短歌県日本一」を公約として、さらに宮崎を豊かな心で生きられる文化を大切にする県として未来を見据えて欲しいと思う。また第1部では感染予防の観点から、受賞者の方々からのビデオメッセージが披露された。オンラインのみならず手軽にスマホ等でも撮影できる動画を活用する方法は、今後の高齢者の大会として適切な方法であると思う。何より寄せられたメッセージの数々の「ことば」が、実に豊かで重いものがあった。
いよいよ第2部で僕の出番となった。引き続き、香川ヒサさんに加え、大口玲子さんと僕が加わる。過去の印象作品の紹介からとなったが、僕は「涙くん考えるたび流れ出るもう泣かせるのやめてくれない」(2017年最優秀賞)を取り上げた。当時、NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」で「涙くんさよなら」を家族で歌う場面があって、元来は坂本九の名曲がリバイバルで流行した年と記憶している。「涙くん」こそが「君は友だちだ」と歌う坂本九の声にも呼応して、どうしても高齢になると哀しく涙が出てしまうという誰にも向け難い思いを、軽快な響きもよろしく表現しきった一首である。僕もその折から、今でも口ずさめる歌である。短歌はその当時の世相も表現する、「涙くん」の初句からは家族のつながりを大切にというテーマを語った連続テレビ小説とともに、1965年(昭和40年)の坂本九のヒット曲の当時のことが自ずから重なる。「うたは重なる」ということで、1300年の歴史を紡いで来たのである。他にも「百歳」を超えることを詠う作品も取り上げた。まさに『万葉集』編纂に携わったとされる大伴家持は、「百歳が人間の命の限界」だと認識し、そこを目指すべく老体となった惨めさは気にせず「恋心が増すことはあっても」といった趣旨の歌が遺している。当時はまさに空想上の「仙人」ぐらいしか叶わない「百歳(ももとせ)」であるが、1300年の和歌短歌史を経て現在では現実のものとなったのが「高齢者万葉集」ということである。高齢者の方々がそれまでの人生を見つめ、日常から「ことば」を紡ぎ出すことで豊かな老後の人生を送れる。声に出して歌をよむ(読む・詠む)ことで、脳の活性化を図る。今後はこの「老いて歌おう」の大会を若者との交流の場とすべく、「つなぐ」「かさねる」努力を僕が担えればと思う。感染対応でやむを得ないのだが、これほど「心豊かに」ある機会を宮崎の若者も中年の人々も体感しないのは勿体無い。宮崎ならではの「豊かな」人生が歩める大会を、更に未来へ発展させて行かねばなるまい。
高齢者の歌に学ぶ
あらゆる年代の人が自ら当事者だと思える社会を
この国が失うものを、せめて宮崎では生きたものとしたいと思う。
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