思いを包み込んでくれる色
2021-11-11
新刊著書の装幀見本色とデザインが織りなす「思い」を包むイメージ
今年の歩みが彩られるとき
若山牧水の名歌「白鳥は哀しからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」には、幾重もの普遍性が読めるが、特に色の対照性という点は大きな要点である。「しらとり」と読む初句に提示された鳥の色、そして「空の青」と「海のあを」が対照的に提示され、その双方にも「染まずただよふ」という結句。表記の上で「青」と「あを」と書き分けたからには、その質感は微妙に違いがあるのだと繊細な色への感覚も見逃せない。「明確に・・・」ということが声高に語られる昨今の社会であるが、「原色」のみでは決して美しさや普遍性は表現できないと言える。もとより自然界には果たして「原色」というのは存在するのかとさえ思う。典型的な色を「明確に合理的に集約」してしまったのが「原色」だとすれば、本質を見据えた色彩感ではなく人造的な虚飾とさえ言えるかもしれない。それぞれの「原色系」のうちに、数知れぬ素晴らしい色があるものだ。それは人間もまた同じである。
幼稚園頃から絵を描くのが好きで、近所の絵画教室に通っていた。自分の描いた絵が上野の美術館に展示されたこともあり、よくわからぬが感激を覚えたこともある。小学校の写生会では1年生で「特選」を受賞、以後6年生まで毎年「入選」を連続受賞することができた。剣道や勉強をすることを理由に小学校3年生ぐらいで絵画教室をやめたが、先生がたいそう惜しむ言葉を贈ってくれたことが今でも記憶に深く刻まれている。水彩絵の具を使う際に、その色の微妙な配合をするのが大変に好きだった。次第に好む色は減って少なくなり、あまり使わない色との差が目立つようになる。自分の色彩感覚が可視化されたようで、もちろん大きめチューブの「白」が減ることとともに不思議に思っていたことがある。当時の好みからして「青」、冒頭に記した牧水の歌と縁のある色だ。だが写生会で景色を描くうちに、「青」は「緑」にも通じることが意識された。高校生になって漢詩を学ぶと「青山」と表現されるのは「緑深き山」であり、「水碧」と表現すれば「水の澄んだ青」なのだと知って驚いたことがある。まさに自然の色は人間が勝手に切りとれるほど甘くはない。新刊著書の装幀デザイン見本を見つつ、こんなことを思い返した。
やはり原色ではなく微妙な色が好き
「染まずただよふ」うちに自らの仔細な色が見つかる
万感の思いを込める著書の顔として。
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