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短歌オペラ「若山牧水 海の声山の声」公演

2021-10-17
全3幕9場
脚本:伊藤一彦・作曲:仙道作三
日向公演・東京公演の2幕に加えて第3幕「故郷・日向の国」

僕が高校教員をしていた時、新入生を担任するとそのクラスに実に声のよい男子生徒がいた。「国語」の授業をすれば聡明な考え方を提示してくれたり、高1にしては「大人」な生徒だと印象深かった。彼は弁論部に入部し僕が就任時からお世話になっていた国語の先生の指導を受け、校内外の大会で入賞を続けた。奇しくも2年生以降も特進クラスで僕が担任することになり3年間通しての付き合いとなった。卒業式には彼が「答辞」の総代となり書いて来た原稿を読んだ時、それまでに僕が体験したことのない「物語」のある内容に驚いた。「式辞」という型通りを超えて、時事的な内容を含んだ「答辞」は卒業式に参列した卒業生・在校生・教職員・保護者の涙を誘った。このような僕の教員生活で忘れられない生徒が長年の時を経て、奇縁も奇縁にこの短歌オペラで「若山牧水役」を演じてくれた。以前の日向公演・東京公演でもこの巡り合わせには感激を覚えたが、再び「国文祭芸文祭みやざき2020」において、第3幕「故郷・日向の国」を加えて「海の声山の声」と題して増補再演されたわけである。この県をあげての文化の祭典を締めくくる公演としてパイプオルガンも鎮座する県立劇場「アイザックスタンホール」で、ミニ生オケも入った豪華な公演となった。

第1幕・第2幕も以前の公演が思い返されたが、今回はやはり「みやざき」を舞台にした第3幕にいたく感激し涙する場面が続いた。長男・旅人を連れて故郷の坪谷へと帰郷する牧水、沼津に大きな家を建てたので、坪谷で暮らす母・マキを呼んでともに暮らそうという意志も持っていた。旅人役で出演したのは現・坪谷小学校の児童で見事に短歌一首を歌い上げ、「村の子ども」役の友人2名とともに「ふるさとの尾鈴の山のかなしさよ秋もかすみのたなびきて居り」を普段から登校時に行う朗詠さながらに、日向の山と海に届くような声をホール全体に響かせてくれた。牧水が母との再会を果たす場面性に加えて、「子どもらの声」というのはどうしてこんなに心に響くのだろう。「生きる」ことへの「期待・希い・祈り」がその幼い声には込められているからか。また僕にとって感激の沸点は、脚本・伊藤一彦先生の代作歌にあった。公演前の俵万智さんとのトークでご自身も語っていたが、代作するという行為は和歌短歌の歴史の中では正統なる詠法である。代作歌は主に「母・マキ」の心情が語られており、牧水の母子愛の熱さがあらためて心に迫った。若かりし頃の恋人との激しい恋・歌人としての牧水を支えた妻の忍耐強い愛・そして生涯にわたり息子牧水を生きる糧とした母の愛情。牧水の生涯がどのような「愛情」によって支えられ、今に名を遺す歌人となったかがひしひしと伝わる展開には深い感銘を受けた。最後にフィナーレで語られた心に沁みる伊藤一彦先生の歌二首を、敢えてここに提示させていただきたい。

「透きとほる水をかさねて青となる不思議のごとき牧水愛す」
「春おぼろ夏きらきらと秋冬は澄みに澄むなり日向の空よ」(伊藤一彦)
いま宮崎に住んでいて、この機会に巡り会えたすべての出逢いに感謝する。


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