映画『MINAMATAーミナマタ』が語ること
2021-09-26
9年前の水俣フィールドワーク相思社に2泊して実感したこと
「ユージン・スミス」の写真が今も訴えること
2012年8月、福岡の炭鉱から長崎の平和祈念式典、そして水俣で2泊して町の歴史を辿るフィールドワークに参加した。水俣病に苦しみ命を落とした方々の位牌が安置されている仏壇を前に寝泊まりし、夜は相思社の方々とあらゆる話題で語り尽くした。同行した親友の落語家は、そんな語らいの宵の口に「誰かが耳元で囁いた」と叫び出し、無念にも命を落とした方々の魂を感じたらしい。朝のトイレに彼が入ると、必ず天井から巨大な蜘蛛が糸を垂れて降りてきたとも云う。フィールドワークして歩いたのは水俣の町の様々な場所、小さな漁村での人々の生活の手触り感がわかるところ、また水俣全体で自然はいかに循環しているかが知れる山と海が感じられるところ、もちろん「株式会社チッソ」の排水口跡とか町にとっての会社のあり方がわかるところなど多岐にわたった。この旅全体に及び、「日本の近現代が引き起こしたもの」を再認識する機会となった。石炭火力による産業振興は大量のCO2を排出し、第二次世界大戦は世界で唯一の被曝を招き、高度経済成長は公害による人体の侵害をあからさまにしつつ、かたや社会が「発展した」と金を儲け喜ぶものがいた社会を築き上げてきた「近現代」を。
一昨日23日に全国公開となった映画『MINAMATAーミナマタ』を2日目にして早速観に行った。「ミナマタ」の悲劇を自らの写真によって世界に伝えた写真家「ユージン・スミス」の格闘を描いた作品だ。「写真を撮るということは、自らの魂も削ることになる」という趣旨のことを信念に、米国メディアとの確執や葛藤を持ちながら、自分しか撮れない写真を求めて「ミナマタ」へ住むようになる。罹患者やその家族らと心を交わすまでの苦闘や様々な妨害に遭うことを超えて、世界に発信する写真を撮るまでの様子が語られた映画であった。映画題の『MINAMATAーミナマタ』という表記は重い、「オキナワ」「ヒロシマ」「ナガサキ」「ミナマタ」「フクシマ」と世界に知られる地名、もはや日本語固有名詞という枠組みを超えた世界の意志を表現するための表記である。我々はその当事者の国に住みながら、どれほどこれらの土地の真実を知っているのだろうか?映画で描かれた水俣や被害者の格闘の様子は、僕にとって9年前に実感した「経験」と重なり合いながら、世界にここしかない受け止め方ができたと言えるだろう。それは近現代が錯誤の末に至った様々な環境問題は、今もまさに進行中であるということ。映画の帰りに購入した昼食が詰まったプラスチック容器、それを買ってしまう自分をどう見つめるか。この映画は過去ではなく、地球の未来へ向けて皆が当事者であることを考えさせられる。帰宅して「ユージン」の写真集をあらためて見直している。
相思社発行『ごんずい162号』は映画特集号
「近現代」の歴史そのものを振り返る大きな視野が求められる
「SDGs」などというのは、もう遥か以前から「ミナマタ」で学ばれていたことだ。
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