投球の精度と守備力ー「日本野球」が目指してきたもの
2021-08-08
五輪野球競技初の優勝長嶋監督をはじめ野球関係者の悲願
投手を中心にした守備力こその「日本野球」
昔年、少年だった僕はMLBのシンシティ・レッズが来日する日米野球を後楽園球場の外野席で観ていた。レフトの照明灯の支柱を直撃するジョージ・ホスターのHR、ジョニー・ベンチの座ったままからの一塁牽制球、ピート・ローズの安打製造機と言われたバットコントロールと激しく華麗な走塁と守備に圧倒的に魅了された。彼らが宿をとる赤坂のホテルニューオータニまで自転車で駆けつけ、朝の球場への出発時にバスに乗り込んだ選手たちにサインをもらった。人混みに紛れてホスター選手の脇腹部分に、マジックインキで線を描いてしまったことも今は公言しよう。当時は「日米野球」と言ってシーズンオフになると、前年度の「ワールドチャンピオン」などのチームが「観光旅行」的な意味合いもあるかのように親善試合をするために隔年などで来日していた。あれからどれくらい経ったのだろうか?かの経験は僕自身に「本物の野球」を観たいという野望をもたらせたと言ってよい。ここ20年ほどの日本人選手の米国進出は、自ずと僕の視点をMLBに向かわせた。イチロー・松井秀喜・松坂大輔らを現地球場やスプリングトレーニングで観ることに執心する時期があった。第1回(2006年)第2回(2009年)WBCではあらためて心底、野球に陶酔した。そんな中で「五輪野球」は、アマ参加時代から混合となり次第にプロ野球選手のみで編成されるに至るが、「日本代表」が頂点に登り切れない不全感を伴いながら、僕ら野球ファンの中で燻っていた一つの「世界大会」であったといえるであろう。
こうした積年のモヤモヤを解消するように、対米国の決勝「2対0」というスコアでようやく「日本代表」が頂点に座った。次回パリ五輪では再び正式種目から除外され、「参加6カ国」という今回の「野球競技」から僕らは何を学ぶことができたのであろうか?冷徹に見つめるならば、2位米国代表も3位ドミニカ共和国代表も、召集された選手は「代表」と言えるほどではないのが現実だろう。MLBの中心選手はまず招聘できないことは、大谷翔平選手などが「日本代表」になり得ないことを考えればすぐにわかる。前述したWBCがMLB機構の主催であって、いささかは米国やドミニカにMLBのトップ選手が招聘されたことを思うと、「五輪野球」の頂点が「世界一」なのかどうか?を疑問視する声も少なくはない。MLBのシーズンごとの頂点を決める試合を「ワールドシリーズ」と呼称している「王権」のような構造を塗り替えるのは難しいのが実情だ。敢えてその支配に風穴を開けたと見なせるのは、MLBの歴史に刻まれたシスラーの記録を書き換えたイチローと、(ベーブ)ルース以来ともなる翔平の活躍ということになる。敢えて「五輪野球」に否定的な面も書き連ねたが、この実情を知った上で僕らは「日本野球」を公正に評価する必要がある。少なくとも「昭和」の時代には「子ども扱い」のような試合であった「日米」の差が、大きく縮まったのは確かである。MLBを含めた「世界一」の野球界で堂々と誇れるのは、投手の精度を中心とした守備力である。今回の五輪優勝に至る道でも、若手投手の精度と度胸を兼ね備えた小気味好い投球には痺れた。同時にその投手の力を十二分に引き出す捕手のリードと投手交代を適切にこなすベンチワーク、これが「決勝」で米国を「0封」した勝因である。NPBで誇れる投手陣は過去のMLB日本人選手の実績に鑑みても、十分に「世界」で闘える力を持っている。同時に野手においては走攻守のどれもが欠けることのない総合力が必要なことも、この大会を見ていて痛感した。要は「打てばよい外野手」では「世界」は見向きもしないということだ。MLBへ向かう選手に投手が多いのも、「日本野球」の大きな特徴である。考えてみれば長嶋茂雄監督の現役時代は、明らかに走攻守の三拍子に長けていた。打席のみならず一つの走塁や守備機会までも見逃さずに観たい選手であった。僕ら野球ファンを含めて、厳しくそして楽しく「日本野球」の力を評価してこそ、明日の「世界野球」があるのだと思う。「世界」という意味は、多くの人々の笑顔が球場で見られるということである。
やはり野球には人生が見える
投球のリズムこそが攻撃の起点となる
「世界」を視野に「日本野球」のさらなる成長を期待したい。
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