時系列と因果律の思考をあらためて
2021-08-04
「時が経てば事件は解決に向かう」?「なぜ?と問うことで理由が明らかになる」
またまた時系列思考での迷走にありやしないか
「物語を読む際の思考」のお話し。その要因が生育環境にあるのか定かではないが、日本人が「物語」を考えると「時系列」で考える傾向が強く、欧米人は「因果律」で考える傾向が強いことが報告されている。我々が絵本を想像すれば容易にわかることだが、冒頭からページをめくるごとに時間が先に進行するのが時系列である。それに対して冒頭に鍵となる物語中の場面が描かれていて、「なぜ?その事件は起こったのか」という問いがくり返され「物語」が進行するのが因果律である。わかりやすい例を挙げておくならば、『水戸黄門』は旅行く先々で農民町人の苦難を知り、その背景に悪政があることを時間をかけて暴き、最後に「三つ葉葵」の印籠という「権力」を翳して解決する物語である。「ラスト5分」にあらゆる問題は解決することを確信しながら時系列物語は進行する。一方で『刑事コロンボ』などは、最後に事件が解決するのは同様だが、冒頭に事件の場面が明示されて、それを「コロンボ」が「なぜ?」「なぜ?」と犯人と眼をつけた人物に問い続けることで次第に「実は!」が明らかになる物語である。よって解決方法は「権力」によるものではなく、「なぜ?」の問い掛けの隙間に表れた綻びを鋭く露見させる各回独自の「コロンボ」の叡智が描かれる。もちろん「ご老公」も、忍びの「弥七」などに事件の「なぜ?」を探らせて裏を取るのではあるが。
高校の「歴史」の授業を思い返してみよう。原始から縄文・弥生時代などから始まり、江戸時代に行き着く頃には息が切れる。一番われわれの生活に影響を及ぼしている近現代史は「時間切れ」になってしまう実情があった。(最近は改善傾向もなくはないだろうが)欧米の「歴史」教育は学習者の問題意識から「なぜ?」を問う展開をすると、学会の報告で聞いたことがある。そう!われわれは元来が「なぜ?」を問わない国民として育てられ、「時間が経てば解決する」と「印籠」「必殺」「スペシュウム光線」「ライダーキック」「波動砲」「超合金合体ロボット」を待望し続ける思考の傾向があることを知るべきだろう。いささかお断りをしておくならば、「ウルトラシリーズ」の中でも『ウルトラセブン』に関しては、「なぜこの怪獣が地球を襲うのか?」という問いに対する「哀しい物語」が用意されていた。また「波動砲」で敵を殲滅する『宇宙戦艦ヤマト』では、ガミラス星を攻撃した後に「自分たちは何のためにこんな戦いをしているのか?」という戦争と平和に対する「なぜ?」の問いがあった。よってまったく因果律を思考しない訳ではないのだが、「切り札」を待望し時系列の未来を単純に待つ傾向が強いのである。話は遠回りをしたのだが、この1年半もわれわれは『水戸黄門』の結末を待望し楽観視をし過ぎたのではないだろうか。その結果、「ご老公」にもならぬ「悪徳商人の番頭」みたいな者の戯言に、活路の見えない明日しか描けないところまで来てしまったのである。
「なぜ?」を日々問うことの重要性
こんな波が来ようとは、では始まらまぬ
「なぜ?」感染症が拡がったのか、「コロンボ」のような緻密で大胆な問いが求められる。
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