ヒザ・ゲタ・着地ー体操競技に日本の夢よもう一度
2021-07-29
体操部の先生の口癖「ヒザ!」「ゲタ!」「着地!」
言語芸術たる短歌の結句にも通ずる演技構成
TOKYO2020体操競技男子個人総合で、19歳の橋本大輝さんが優勝を成し遂げた。個人総合での五輪優勝は、1964年(昭和39)の東京五輪で遠藤幸雄さん・1968年(昭和43)メキシコ・1972年(昭和47)ミュンヘンの2大会連続で加藤沢男さん、1984年(昭和59)ロス大会の具志堅幸司さん、2012年(平成24)ロンドン・2016年(平成28)リオデジャネイロの2大会連続で内村航平さんと、過去に4人の金メダリストが歴史に刻まれている。特に加藤沢男さんと内村航平さんの2連覇という偉業には、あらためて敬服をしたい。連覇という意味では、前2大会の内村さんに続き、今回の橋本さんで3連覇という快挙ということになる。また個人総合でなくとも、日本体操の初の金メダルは、1956年(昭和31)メルボルン大会での鉄棒で小野喬さん、1960年(昭和35)のローマ大会と2連覇し、1964年(昭和39)東京大会では団体総合優勝に導いた。「鬼に金棒、小野に鉄棒」とは当時の流行語になったと聞くが、戦後復興の厳しい時代に「体操日本」の礎を築いた小野喬さんの功績はあまりにも偉大である。実は僕自身は小野喬さんのご子息を高校で担任をしたことがあり、保護者会の面談で緊張のご対面を果たした経験がある。今回のTOKYO2020にあたり、ご子息とのやり取りで小野喬さんもお元気で体操競技をご覧になっていると知る機会があり、面談時のお話を思い返しながら体操日本の歴史を身近に感じ取る幸運な出逢いをあらためて噛み締めた。
さて、小野喬さんを保護者として面談する際にも、まずは僕自身が高校時代に器械体操をしていたことを明かした。ご子息はサッカーで頑張っていたのだが、僕の次元は違い過ぎるが同じ競技に取り組んだという親近感から、ご子息の進路面での話題などもスムーズにいったように記憶する。僕自身が体操部の頃の印象深い記憶としては、顧問の先生が常に「ヒザ!ゲタ!着地!」とくり返し指導してくれたことだ。中学時代から野球部上がりの僕は、なかなか「美しく演技する」という意識にはなれなかった。「ただやればいいのではない!綺麗に演技せよ!」というまったく新しい競技観に目覚めたのであった。先生はよく「加藤沢男のつま先を見よ!」と言っていた。空中での回転する際の姿勢でも、つま先まで伸びているのが日本の体操なのだと教えられた。昨夜も橋本大輝さんは平行棒や鉄棒の得点で大逆転を成し遂げたが、やはりどんな難易度の技であっても、空中姿勢で足が割れたりヒザが曲がったりつま先が「ゲタ(先が伸びずに手前方向に折れて下駄を履くようになっていることから)」になることはほとんどなかった。この点に関しては、内村航平さんの脚線の素晴らしさを継承していると言えるかもしれない。体操日本の多くの先輩たちを継承しつつ、新たな時代の担い手が登場してきた。リオデジャネイロで内村さんが個人総合を優勝したのを、中学校3年生として見守っていたと云う。夢は現実化する。小野喬さんに始まる体操のレジェンドが、いま日本社会が失っている夢を思い起こさせてくれるのだ。
惜しくも5位入賞の北園丈琉さんも怪我を乗り越えての健闘!
緻密・精度・堅実、そして美しさ
僕がいま、言葉の美を求めて演技をすることを奮い立たせてくれた。
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