「うしろには夢がない」寺山修司の触発されることば
2020-08-04
「自叙伝などは、何べんでも書き直し(消し直し)ができるし、過去の体験なども、 再生をかぎりなくくりかえすことができる。できないのは、次第に輪郭を失ってゆく『私』そのものの規定である。」
(寺山修司「黄金時代」ー『寺山修司名言集』PARCO出版2003より)
「今」小欄の一文字一文字を打ち込んでいる”とき”は順次「過去」になり続けている。既に何秒か前に打った「今」は、明らかな「過去」である。それが嫌だと思えば、パソコン上でいつでもいかようにも「消し直し」をすることができる。だが「今」は、それをせずに書き進めることにしよう。なぜなら「ふりむくな ふりむくな うしろには夢がない」という言葉に背中を押されるからである。小欄に言葉を紡ぐことは、過去や思い出に絡め取られるためではなく、「今」から前に輝く「夢」を見るためである。「私」そのものは多面体で形式的な「輪郭」はあるが、その「規定」は難しい。
寺山修司の短歌を読んで、その総体的な仕事のあり方に大変興味を抱き何冊かの資料を入手した。冒頭に引用した「名言」をはじめ、多ジャンルを横断的に表現し続けた奇才・天才のことばには、触発され魂を揺さぶられる思いがする。「書く」という行為そのものが「過去」であり「思い出」のようであるが、寺山にとってそれは「経験」ではなく「物語(ストーリー)」なのだと云う。「過ぎ去ったことなどはみな、比喩にすぎない」とさえ言う。また「実際に起こらなかったことを思い出にすることもできるものなのです。」とも。このあたりの名言に、短歌を考え直す大きな材料が散りばめられている。
今年もまた8月が来た
あなたは75年間のうち、どれほどをどのように生きてきたか
せめて「物語」を語り継ぎながら「夢」を見たいものである。
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