世の中に土用丑の日なかりせば
2020-07-22
「石麻呂に我物申す夏痩せに良しといふものを鰻捕り喫せ」(3853)「痩せ痩すも生けらばあらむをはたやはた鰻を捕ると川に流るな」(3854)
(『万葉集』痩せたる人を嗤ふ歌二首・大伴家持)
宮崎はここ2日ぐらい、35度を超さむとするほどの夏らしい気温となった。妻と父母と土用丑の日なので鰻を食べに行きたいということになり、ゼミを終えた夕刻によく行く有名店に確認の電話をすると、既に売り切れてしまい申し訳ないという返答であった。市内まで出向けば他店もあるのだが世情がら密になるのも憚られ、近所の馴染みの洋食屋さんに行き先を切り替えた。美味しい肉料理をいただき、栄養補給という目的は十分に達成できた。あまり知られていないようだが、宮崎は国内では鰻の産地としても有名で、地元の人に言わせると近所の川で橋の上から釣り糸を垂れれば、容易に鰻が釣れるのだと云う。県内には有名店が何軒かあって、キャンプ時にはプロ野球選手なども足繁く通う。
鰻が食べたい気持ちに後ろ髪引かれながら、「土用丑の日」の文化的背景が気になった。委細はともかく『日本国語大辞典第二版』を繰ると、「江戸時代」からの習慣であるとされている。町人文化が花開いた江戸であればと納得するところだが、どうせ鰻屋が儲けようとする算段からではないかとやや懐疑的にもなる。バレンタインやホワイトデイが菓子屋の仕掛けであることなどが思い返され、鰻を食べられなかった負け惜しみから「土用丑の日」でなくても食べに行けばよいのだと思い直す。しかし『日国』の記述に『万葉集』大伴家持の歌などに見られるとあったので確認すると、冒頭に記した歌が検索できた。「石麻呂」という「痩せたる人」に対する戯笑歌で「夏痩せに良しというので鰻を捕って召し上がれ」とか「鰻を捕ると川に流れるなよ」と戯れて笑い「物申す」歌である。奈良時代の古代から栄養価が高いことが知られていたわけで、人間の文化とは何かと考えさせられる。
今年は二の丑もあり8月2日
どうせなら梅雨も明けてカラッとした夏が待ち遠しい
栄養をつけてコロナの夏を乗り切らねば。
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