「名にし負はばいざ言問はむ」名実のいま
2020-06-16
「名にし負はばいざ言問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」『伊勢物語』第9段「東下り」より
「言問橋」「業平橋駅」(東京)「八橋』(愛知)など
気が早いのだが、今年の流行語大賞は「コロナ(禍)」以外考えられるのだろうか?2月ごろより各メディアで「コロナ」という語が、どれほど喧伝されたであろう。その報道の一部に、ウイルスと同名の「コロナビール」(メキシコ)の売り上げに影響がありやなしやというものがあった。ショットバーなどでは開栓後に柑橘類を瓶の口に添え、所謂”ラッパ飲み”するのが通例の爽やかなビールである。Web記事ゆえ信憑性はさて知らずだが、当ビールの検索数がかなり上昇しウイルスとは無縁ながら売り上げが減少してしまう風評被害に遭ったとされている。また日本の暖房器具を中心に製造している「株式会社コロナ」もあり、僕が東京で居住していた地域には「コロナ社」という出版社もあった。
「新型コロナウイルス」の命名は、そのウイルス形状が「太陽大気の最外層の希薄なガス体」にも似て、球体から複数の棘のようなものが出ている所以である。皆既日食などの際に太陽を観察すると見られる炎ゆえに、太陽が自らエネルギーを放つ恒星として燃え上がる恒常性の象徴として商品名や社名に採用されたことが推測される。(正確に調べた訳ではないが、暖房器具製造会社の社名としては格好の看板となる。)このように「命名」の問題は、人名を含めて様々な事後の現象に左右され肯定的にも否定的にもなる可能性がある。学部1年生の講義で『伊勢物語』を講読しているが、著名な「東下り」の段には冒頭に記した和歌がある。「その名前に”都”を背負っているならば、(都のことを知っているだろうから)さあ!問い掛けよう都鳥さんよ!」のように上の句は解せる。同段には「橋を八つ渡せるによりてなむ、八橋といひける」という語りもあり、平安前期の資料(他に『土佐日記』など)には名実の合致に対して深い意識を読み取ることができる。考えてみれば「東京スカイツリー駅」は元々「業平橋駅」であり、その近くの隅田川には「言問橋(冒頭の和歌に由来する命名)」が掛かるのを僕ら東京下町の住人は当たり前のように受け入れていた。駅名が変更になり、その由来の伝承が途切れてしまいつつ東京の名所であるのが惜しまれる。
名前に言霊あり。
僕が現在の所属校に赴任した際の時間割表の誤植「佳”史”」
発見し即座に事務職員の方に「文学を専攻するので佳”文”です」と言ったものだ。
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