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「まことしやかに弾くギタリスト」でいたい

2020-02-10
「みづうみに水ありし日の戀唄をまことしやかに弾くギタリスト」
(塚本邦雄『水葬物語』より)
情報の疑わしい時代に生きるために

「まことしやか」という慣用句を、実に見事に一首に詠み込んだ短歌を他に知らない。概して「慣用句・常套句」は、「手垢のついた言葉」として短歌に入れるべきではないというのが近現代短歌の鉄則でもある。前衛短歌として、革命的な表現開拓に挑んだ塚本邦雄ならではの鮮烈な自己批判と社会風刺に満ちた作品を冒頭に掲げた。もとより「水」があってこその「みづうみ」であるはずだが、名称に示された基本的な情報への真偽と不信は、言葉による表現のみならず社会構造やこの世の矛盾に対して鮮烈な楔を打ち込むかのような一首である。同時に「戀」(塚本邦雄は旧字使用を徹底した)という不安定でなかなか信用ならない事象の「唄」を「弾くギタリスト」の存在、社会の風穴の中で踠き苦しみ街頭で弦も切れむばかりに訴えるように「唄う」姿がリアルに浮かぶ。

ある情報番組を観ていて、「スペイン風邪」という名称の由来を知って驚いた。第一次大戦時に米国が自軍の兵士たちが大量に流感を患っているのを隠蔽したのだが、スペインだけが世界的な爆発的流行を避けようとする善意から自国のあらゆる感染情報を世界に公表したためにその名があると云う。現在ほど情報が世界的に縦横無尽に飛び交う時代ではないが、「なぜスペインだけで流行するのだろう?」という疑問を抱えながらも、その名付け行為が偏見に満ちたものであったことを想像せずにはいられない。さながら「風評被害」を恐れず、真実を公表したゆえに名付けられた「勲章」的な栄誉ある名称とさえ思う。100年以上が経過した現在、果たして人類の情報に対する信頼は進化したのだろうかと思う。世界的に築かれたはずの「民主主義」は崩壊へ向かい、情報を操作・改竄することで事実を隠蔽するという人類の後退が甚だ”先進的”だ。このままだと、「まことしやかに」「みづうみに水ありし日」が訪れるかもしれない。せめて街頭で弦が切れても「戀唄」を唄い続けるしかないのだろう。

学生の卒論における情報の批評的な捉え方も
諸情報を公開し公平公正に共有し対応すること
隠蔽が「まことしやかに」平然と始まっている世の中を憂う。


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