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「逆白波」のひびくゆふべに

2020-01-16
「最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも」
(斎藤茂吉『白き山』より)
「さかしらなみ」響きの奥行き

冒頭に記した茂吉の著名な名歌を声に出して読むと、いかにも寒々しい感覚に持っていかれる。山形県「最上川」そのものが含みもつ、「五月雨をあつめてはやし最上川」の芭蕉の句に見られる急流なイメージがある上に「冬」が上塗りされる。「さかしらなみ」の語に「サ行音」が響き、それを「ア行音」が受け止める韻律には、冬の川の過酷な寒さが身に沁みて感じられてくる。それが具体的にどのような光景かは、たぶん現実を見なければ理解はできないであろう。だが、この素朴な情景描写に徹した表現から、創作主体の沈痛な抒情が伝わる作品となっている。その秀歌たる大きな要素に、音の響きが貢献していると言えるであろう。

今年は北信越・東北・北海道は雪不足で、スキー場などの営業も儘ならないところが多いと報道にあった。冬は寒いからこそ冬、昨夏のように台風による大きな被害も地球温暖化の現実であるならば、「あるものがない」ことにも大きな危機感を持つべきかもしれない。例えば、雪の寒さ冷たさがあってこそ、かの地の酒蔵は冷やされて上質の日本酒ができていた。生態系などにおいても雪に覆われ、雪解け水があってこそむしろ「あたため」られるものも多いことだろう。もはや茂吉の詠んだ「最上川」の光景は、失われてしまうのかもしれない。温暖化という急速な地球環境の破壊によって、風土の光景の保存という重要な記録の役割を短歌が担うかもしれない。

寒さに向き合う身体
過酷に鞭を打つような「逆白波」
その奥に人間のあたたかい体温があることを信じている。


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