焦点を絞るー第342回心の花宮崎歌会
2019-12-02
「なぐさまず歩み来れば月下にて音なくもつれ人格闘す(岡部桂一郎『木星』)「身籠れるごとふつくらとかなしかるこの春山にけふは恋すも」(伊藤一彦『海号の歌』)
短歌における具象と抽象のことなど
早いもので師走、第一土曜日と定まっている心の花宮崎歌会が開催された。詠草には全部で44首の歌が並び、参加人数もいつもながら盛況である。午後3時半開始も定着して来て、懇親会まで時間的に余裕をもって運ぶことができる。それにしても毎回のように告知される県内の短歌行事は、実に多く実に多様である。これぞ「短歌県」たる所以であり、その各行事で心の花の会員の方々が活躍されている。さて歌会冒頭は恒例の三首鑑賞、この日に取り上げられたうち二首を小欄冒頭に記した。鑑賞担当の方が提起したのは「短歌の具象と抽象」について、特に一首目の岡部桂一郎の詠歌の姿勢は常にこの点にこだわりがあったと云う。解釈を深めないと「わからない」のだが、まさに詩的に哲学的な奥で、核心的な具象に辿り着きそうな歌なのである。
いざ歌会開始、今月も秀歌が多く得票にも迷う。高点歌からの批評となるが、その優れた点を議論するとともに、さらなる推敲を施す点にも意見が及ぶ。当然ながら時間配分も得票した歌に多くなるわけだが、「表現が未熟な歌は解釈が定まらないため、そこに時間をかけ過ぎない方がよい」と云う伊藤先生の意見もあってのことだ。秀歌に学び秀歌を目指す、その奥深く緻密な議論に耐え得るものが秀歌の条件でもあるだろう。この日の議論でいくつかの歌に対して「(一首の)焦点を絞ること」という意見があった。読者を惹きつけるに十分な比喩があるところに、言わずもがなの一句分(七音)が付加されている。だがどうやらその部分に詠者の言いたい部分があるようにも読める。「VTR(動画)的」ではなく、瞬時を切り取る「写真」にする意識で焦点が定まる。まさに短詩系たる所以が議論されたような、今年の総決算の歌会となった。
宮崎大学短歌会の学生たちの高点も目立ち
世代間交流も促進するような宮崎歌会
新年会へ向けてまた個々の作歌の時間に戻っていく。
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